最近、サイバー攻撃やシステムの脆弱性によって、さまざまな企業のサービスが停止するニュースを目にします。銀行や証券会社など、私たちの暮らしを支えるサービスも例外ではありません。
技術が進歩し、便利になった一方で、一つのシステムが止まるだけで、想像以上に多くの人や企業に影響が及ぶ時代になりました。
こうした出来事を見ていて、企業経営における「余裕」について、改めて考えさせられました。
無駄をなくすことと、余裕をなくすこと
企業は長年、効率化に取り組んできました。
人員を最適化し、在庫を減らし、設備の稼働率を高め、業務を自動化する。無駄な仕事を減らし、限られた資源を有効に使うことは、経営にとって大切なことです。
特に中小企業では、人も資金も限られています。無駄を放置できるほどの余裕はありません。
ただ、効率化を進める中で、本来は残しておくべきものまで削ってはいないでしょうか。
例えば、普段は使わない予備の設備。突然の欠員に対応できる人員。予定に追われず、じっくり考えるための時間。
何も問題が起きなければ、これらは無駄に見えるかもしれません。しかし、本当にそうなのでしょうか。
私は、この違いをもっと大切にする必要があると思います。
何も起きなかったことにも、価値がある
例えば、ある企業が万一のシステム障害に備えて、予備の設備を維持していたとします。
10年間、一度も使う機会がなかった。その費用を見れば、「使わなかった設備に、ずいぶんお金をかけたものだ」と感じるかもしれません。
けれども、11年目に大きな障害が発生し、その設備によって事業を継続できたとしたら、どうでしょうか。
それまでの10年間は、決して無駄ではなかったはずです。
そもそも、何も起きなかったという結果だけで、備えの価値を判断することはできません。事故を防ぐ取り組みも、問題が起きなければ成果が見えにくいものです。
そんな側面があるのだと思います。
一見、無駄に見える時間から生まれるもの
ただ、余裕の価値は、危機に備えることだけではありません。
私たちが取り組んでいる共創の現場でも、同じようなことを感じます。
企業と生活者が一緒に話していると、予定していたテーマから大きく脱線することがあります。何気ない雑談が続いたり、一度決めたことを考え直したり、試作品を何度も作り直したり。
効率を重視する人から見れば、ずいぶん無駄の多い進め方に映るかもしれません。
けれども、その雑談の中から、思いがけない本音が出てくることがあります。脱線した話の中に、企業がそれまで気づかなかった生活者の困りごとが隠れていることもあります。
何度も試作を繰り返すからこそ、最初には見えていなかった価値が見つかることもあります。
もちろん、すべての雑談や試行錯誤に意味があるわけではありません。ただ、最初から無駄だと決めつけて切り捨ててしまえば、そこから生まれるはずだった発見にも出会えません。
長年、生活者と企業が向き合う現場に関わってきて、そんなことを感じています。
社員がふと感じた疑問に立ち止まる時間。お客様が何気なく話した一言を、もう少し深く聞いてみる時間。すぐに結果が出なくても、小さく試してみる時間。
そうした余裕は、企業が新しい価値を生み出すためにも必要なのではないでしょうか。
余裕を持つことは、甘い経営なのだろうか
もちろん、余裕があればよいという単純な話ではありません。
使う予定のない設備を際限なく増やすことも、人を必要以上に抱えることも、経営を苦しくする原因になります。特に小さな企業では、そうした余裕を簡単には持てません。
だからこそ、何を削り、何を残すのかという経営判断が重要になるのだと思います。
単に費用がかかっているから削る。すぐに利益につながらないからやめる。数字に表れないから評価しない。
そんな判断を積み重ねていくうちに、企業にとって本当に大切なものまで失ってしまうことがあるのではないでしょうか。
経営に必要なのは、余裕をなくすことではなく、余裕の意味を見極めることなのかもしれません。
企業の強さとは、何だろう
効率のよい企業は、強い企業なのでしょうか。もちろん、効率のよさは大切な強みです。
しかし、想定外の出来事が起きたときに対応できること。社員が自分で考え、新しいことに挑戦できること。お客様の声に耳を傾け、必要であれば立ち止まって考え直せること。
そうした力も、企業の強さではないかと思います。
何も問題が起きないことを前提に、限界まで効率を高める。それは、平常時には優れた経営に見えるかもしれません。
けれども、企業を長く続けていくには、予定どおりにいかないことを受け止める力も必要です。その力を支えるものの一つが、余裕なのではないでしょうか。
無駄はなくしたい。
けれども、余裕までなくしてしまいたくはない。
最近のさまざまな出来事と、日々の共創の現場を重ねながら、そんなことを考えています。
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