経営者であれば、多くの方が「組織に一体感をつくりたい」と考えるのではないでしょうか。
しかし、あらためて「一体感とは何ですか?」と問われると、意外と説明が難しいものです。同じ方向を向くことなのか、仲が良いことなのか、同じ目標に向かって動くことなのか。言葉としてはよく使われますが、とても感覚的な概念でもあります。
私自身、昔から「全員が同じ方向を向いている状態」に、少し違和感を持っていました。というより、正直に言えば、私はいわゆる“良い生徒”ではありませんでした。先生が前に立ち、全員に同じことを言い、同じ姿勢で聞き、同じ答えを求められる。そういう場面が、どうにも苦手だったのです。
もちろん、学校教育には大切な役割があります。基礎を学ぶこと、集団生活を知ること、一定のルールを身につけること。それらを否定するつもりはありません。
ただ、「静かにそろっていること」と「本当に一体感があること」は、同じではないのではないか。そんな違和感は、今でも残っています。
見た目がそろっていても、一体感があるとは限らない
昔の学校では、先生が前に立ち、全員に同じことを伝える場面が多くありました。同じ時間に、同じ教室で、同じ黒板を見て、同じ答えを出す。
外から見れば、とても整っているように見えます。しかし、その中にいる一人ひとりが本当に納得していたかというと、必ずしもそうではありません。
黙って座っているからといって、理解しているとは限らない。同じ方向を向いているからといって、同じ気持ちでいるとは限りません。先生の言うことを聞いているように見えても、心の中では別のことを考えている生徒もいます。
私などは、まさにそのタイプだったかもしれません。「なぜ、みんな同じ答えを出さなければならないのだろう」「えっ、それに従うの?」「本当にそうなのだろうか」「別の見方もあるのではないか」。そんなことを心の中で考えながらも、結局はその場の空気に合わせて、仕方なく従っていたように思います。外から見れば普通に座っている生徒でも、内心ではどこか納得しきれていなかったのです。
でも今になって思うと、その違和感は決して悪いものではなかった気がします。みんなと同じ答えを出すことよりも、「本当にそうなのか」と問い直すこと。その感覚は、商品開発や組織づくりにも通じる大切な視点だったのではないかと思います。
違う立場の人たちが、同じ現実を見ながら、少しずつ呼吸を合わせていくことです。
商品開発の現場でも「全員に同じことを言う」だけでは動かない
商品開発の現場でも、「一体感が足りない」「部署間の連携が弱い」「社内がバラバラだ」という声を聞くことがあります。
そのときに、経営者やリーダーが、「全員で同じ方向を向こう」「会社として一枚岩になろう」「もっと当事者意識を持とう」とメッセージを発信することがあります。
もちろん、方向性を示すことは大切です。しかし、言葉だけで一体感が生まれるわけではありません。
なぜなら、現場にはそれぞれの立場があるからです。
- 営業は「お客様はこう言っている」と言う。
- 開発は「技術的には難しい」と言う。
- 製造は「現場負担が増える」と言う。
- 経営は「利益が出るのか」と言う。
- 販売現場は「売場で伝わるのか」と言う。
- 生活者の声は、どこかで都合よく切り取られる。
この状態では、全員が頑張っていても一体感は出ません。
ただし、ここで大切なのは、誰かが間違っているわけではないということです。営業も、開発も、製造も、経営も、販売現場も、それぞれの役割を真剣に果たそうとしています。
営業はお客様の声を大切にしている。開発は実現可能性を考えている。製造は安定してつくれるかを見ている。経営は事業として成立するかを考えている。販売現場は実際に売場で伝わるかを見ている。
どの視点も必要です。むしろ、どれか一つが欠けても商品開発はうまくいきません。
問題は、意見が違うことではありません。それぞれが見ている「現実」がバラバラになっていることです。
一体感がない原因は、やる気の低さではなく「つながり方」にある
組織に一体感がないとき、つい「現場の意識が低い」「部署間の協力姿勢が足りない」と考えてしまうことがあります。
しかし、実際にはそう単純ではありません。
一体感がない会社ほど、実は一人ひとりは真面目に頑張っていることがあります。それぞれが自分の役割を果たそうとしている。それぞれが会社や商品を良くしたいと思っている。
それでもバラバラに見えるのは、努力の方向がつながっていないからです。
営業は営業の現実を見ている。開発は開発の現実を見ている。製造は製造の現実を見ている。経営は経営の現実を見ている。
そして、肝心の生活者の現実が、部署ごとの都合に合わせて解釈されてしまう。
「お客様はこう言っていました」という言葉も、聞き方や切り取り方によって意味が変わります。
「安い方がいい」と言ったから価格を下げる。「かわいい」と言ったからデザインを変える。「便利そう」と言ったから機能を増やす。
しかし、生活者の言葉は、表面だけを受け取ると間違えることがあります。本当は価格そのものではなく、納得できる理由を求めているのかもしれない。本当はデザインではなく、自分らしく使える感覚を求めているのかもしれない。本当は機能ではなく、使う場面での安心感を求めているのかもしれない。
だからこそ、生活者の声をどこかの部署だけで受け取るのではなく、関係する人たちが一緒に見て、一緒に考えることが大切になります。
昔の学校型の一体感と、これからの共創型の一体感
ここで、あえて少し単純化して整理してみます。
昔の学校型の一体感
- 全員に同じことを言う
- 同じ姿勢を求める
- 同じ答えを出させる
- はみ出さないことを重視する
- 静かにそろっている状態を良しとする
これからの共創型の一体感
- 違う立場の声を出す
- 違和感を共有する
- 生活者の現実を一緒に見る
- 対話の中で意味をそろえる
- 一人ひとりの違いを価値づくりにつなげる
一体感という言葉を聞くと、どうしても「全員が同じ方向を向くこと」と考えがちです。
しかし、商品開発やマーケティングにおいて本当に必要なのは、全員を同じ考えにすることではありません。
営業は営業の視点を持っていていい。開発は開発の視点を持っていていい。製造は製造の視点を持っていていい。経営は経営の視点を持っていていい。
大切なのは、その違いを消すことではなく、生活者価値を中心につなぎ直すことです。
一体感とは、違いをなくすことではありません。
違う立場の人たちが、同じ生活者の現実を見て、価値づくりの方向を少しずつ合わせていくことです。
一体感は、号令ではなく「共通体験」から生まれる
会議室で資料だけを見ながら議論していると、どうしても部署ごとの立場が前に出ます。
営業は売りやすさを語る。開発は仕様を語る。製造は効率を語る。経営は数字を語る。
それぞれの言い分は正しいのですが、議論が立場のぶつかり合いになりやすい。
しかし、生活者が実際に商品を選ぶ場面、迷う場面、使う場面、不満を感じる場面を一緒に見ると、会話が変わります。
「なぜ、この人はこの商品を手に取ったのか」「なぜ、説明を読まずに棚に戻したのか」「なぜ、機能ではなく雰囲気で選んだのか」「なぜ、“かわいい”という曖昧な言葉で判断しているのか」。
こうした現実を一緒に見ることで、部署ごとの意見が対立ではなく、補完関係になっていきます。
営業の声が、開発にとってのヒントになる。開発の制約が、営業にとって伝え方を考える材料になる。製造の視点が、生活者にとって使いやすい品質につながる。経営の視点が、持続可能な商品づくりの条件になる。
つまり、一体感は「同じことを言われたから」生まれるのではありません。同じ現実を見て、同じ問いを持ち、違う立場から対話を重ねることで生まれるのです。
一体感とは、同じ答えを出すことではなく、問いを共有すること
商品開発やマーケティングの現場には、学校のテストのような正解はありません。
生活者自身も、なぜそれを選んだのかを明確に言葉にできないことがあります。
「なんとなくいい」「かわいい」「安心する」「自分に合いそう」「これなら使ってみたい」。
こうした曖昧な言葉の奥に、選ばれる理由が隠れています。
だからこそ、必要なのは正解を教えることではありません。現場の人たちが一緒に問いを深めることです。
「この人にとっての“かわいい”とは何か」「この商品が選ばれる場面はどこにあるのか」「価格ではなく、何に納得してもらう必要があるのか」「機能ではなく、どんな体験を届けるべきなのか」。
問いを共有すると、部署間の会話が変わります。
誰が正しいかを決める会議から、生活者にとっての価値を一緒に探る対話へ。自分の部署の都合を通す場から、選ばれる理由を一緒に育てる場へ。
ここに、共創型の商品開発の意味があります。
部署をつなぐ“旅人”が、組織の呼吸を合わせていく
組織の一体感を考えるうえで、もう一つ大切なのが、部署と部署をつなぐ人の存在です。
社内には、どうしても部署ごとの言葉や常識が生まれます。営業には営業の言葉があり、開発には開発の言葉があり、製造には製造の言葉があります。
そのままにしておくと、部署ごとの小さな村ができてしまいます。「営業はいつも無理を言う」「開発は現場を分かっていない」「製造は保守的だ」「経営は数字しか見ていない」。こうした見方が固定されていくと、組織は硬くなります。
そこで必要になるのが、部署をまたいで情報や違和感を運ぶ“旅人”のような存在です。
旅人とは、特別な役職の人だけを指すわけではありません。営業の現場で聞いた生活者の声を、開発や製造に伝える人。開発の意図を、営業や販売現場に翻訳する人。製造の制約を、商品価値の設計に活かす人。生活者の反応を、経営判断につなげる人。
こうした人がいることで、部署ごとの努力が少しずつつながっていきます。
そして、この役割は固定しすぎない方が良いと感じます。いつも同じ人だけが橋渡し役になると、その人に負担が集中します。また、組織の見方も固定されてしまいます。
ときどき役割を変えながら、いろいろな人が部署を越えて生活者の現実に触れる。その積み重ねが、組織の呼吸を少しずつ合わせていきます。
こらぼたうんが考える、商品開発に必要な一体感
こらぼたうんが考える一体感は、全員を同じ色に染めることではありません。
むしろ、違う色を持った人たちが、それぞれの視点を活かしながら、生活者にとっての価値を中心につながることです。
商品開発では、営業、開発、製造、販売、経営、それぞれの視点が必要です。しかし、それらがバラバラに存在しているだけでは、選ばれる商品にはなりません。
必要なのは、それぞれの視点を生活者の現実につなぎ直すことです。
このようなプロセスを通じて、組織の中に少しずつ共通言語が生まれていきます。
「この商品の価値は何か」「誰にとって、どんな場面で意味があるのか」「なぜ、この人は選びたくなるのか」「私たちは何を届けようとしているのか」。
これらの問いが共有されると、部署ごとの判断も変わります。
営業は、ただ要望を持ち帰るだけではなく、生活者価値を伝える役割になる。開発は、ただ機能をつくるだけではなく、体験を形にする役割になる。製造は、ただ効率よくつくるだけではなく、品質を通じて価値を支える役割になる。経営は、ただ数字を見るだけではなく、選ばれ続ける理由を育てる役割になる。
こうして、全員が同じことを言うのではなく、それぞれの立場から同じ価値づくりに関わっていく。それが、商品開発に必要な一体感だと考えています。
一体感は、管理の成果ではなく、つながりの成果
一体感をつくろうとすると、つい管理を強めたくなります。
もっと報告させる。もっと会議を増やす。もっとルールを決める。もっと同じ資料を読ませる。
もちろん、必要な管理はあります。しかし、管理を強めるだけでは、一体感は生まれません。
むしろ、管理ばかりが強くなると、現場は本音を出しにくくなります。違和感を言いにくくなります。生活者の微妙な反応や、現場で感じた小さな気づきが共有されにくくなります。
本当に必要なのは、管理ではなく、つながりの設計です。
部署内の対話を増やすこと。部署間をつなぐ人をつくること。生活者の現実を一緒に見ること。違和感や気づきを言葉にできる場をつくること。そして、違う立場の人たちが同じ問いに向き合うこと。
一体感とは、上からそろえるものではありません。つながりの中から、少しずつ生まれてくるものです。
同じ生活者の現実を見て、違う立場の人たちが対話を重ねることで、少しずつ育っていきます。
まとめ:一体感とは、同じ方向を向かせることではなく、同じ現実を見ること
私は昔から、「全員に同じことを言う」場にどこか違和感を持っていました。いわゆる良い生徒ではなかったからかもしれません。
でも、今になって思うのは、その違和感は決して無駄ではなかったということです。
商品開発も、組織づくりも、最初から正解があるわけではありません。全員に同じ答えを出させることが目的ではありません。
大切なのは、違う立場の人たちが、同じ生活者の現実を見て、同じ問いを共有することです。
営業は営業の視点でいい。開発は開発の視点でいい。製造は製造の視点でいい。経営は経営の視点でいい。
その違いを消すのではなく、生活者にとっての価値を中心につなぎ直す。そこから、本当の意味での一体感が生まれていきます。
一体感とは、静かにそろっている状態ではありません。号令に従って同じ方向を向くことでもありません。
それぞれの違いを持った人たちが、同じ現実を見ながら、少しずつ呼吸を合わせていくこと。そして、選ばれる理由を一緒に育てていくこと。
それが、これからの商品開発に必要な共創型の一体感ではないでしょうか。
部署を越えて、選ばれる理由を一緒に見つけませんか
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