THOUGHTS & PERSPECTIVES
便利になるほど、
私たちは何を大切にしたいのだろう。
自分自身が利用するサービスで起きた情報漏洩。
その出来事から、人と人が直接向き合う価値について考えました。
先日、私も会員として利用しているタイムズのサービスで、個人情報の漏洩に関する連絡を受けました。
最近は、企業へのサイバー攻撃や個人情報の漏洩といったニュースを目にする機会が増えたように感じます。
これまでも気になるニュースではありましたが、実際に自分が利用しているサービスで起きると、やはり受け止め方が違います。
今回の連絡では、私の運転免許証の画像は漏洩対象に含まれていないとのことでしたが、改めて考えさせられる出来事でした。
私たちは、いつの間にか実に多くの個人情報を企業に預けています。
買い物をするとき、サービスを申し込むとき、会員登録をするとき。
氏名や住所、電話番号だけでなく、場合によっては運転免許証などの本人確認書類まで提出します。
もちろん、デジタル化によって私たちの暮らしは格段に便利になりました。その恩恵は計り知れません。
ただ、今回の出来事をきっかけに、ふと思ったことがあります。
そして、そのことを考えているうちに、私たちが長年大切にしてきた「人と人が直接向き合うこと」の意味にも、思いがつながっていきました。
デジタル化が進むほど、見えてくるもの
今、企業は大量の顧客データを集め、分析し、商品開発やマーケティングに活用しています。
AIの進化によって、これまで人間が長い時間をかけて行ってきた分析や予測も、驚くほど短時間でできるようになりました。
素晴らしい進歩だと思います。
一方で、データを集めれば集めるほど、管理する責任も大きくなります。
どれほど厳重に管理していても、情報漏洩の可能性を完全になくすことは難しいでしょう。
だからといって、私はデジタル化を否定したいわけではありません。
むしろ、これからも技術は進歩し、社会はさらに便利になっていくと思います。
ただ、便利さや効率だけでは測れない価値もあるのではないでしょうか。
そんな気がしています。
便利さや効率は、これからも追求されていくでしょう。
でも、どれほど技術が進歩しても、企業と生活者の間に信頼がなければ、その便利さも十分に生かされないのではないでしょうか。
今回、自分自身が情報漏洩の当事者になって、そんなことも感じました。
企業が生活者を理解しようとすること。そして、生活者が安心して企業と関われること。
この二つは、切り離して考えられないように思います。
そんな時代になるのではないでしょうか。
顧客のことを知っている。でも、本当に理解しているだろうか
企業は今、以前とは比較にならないほど多くの顧客情報を持っています。
何を買ったのか。いつ買ったのか。どのような商品を比較したのか。何に興味を持っているのか。
さまざまなデータから、顧客の行動を把握できるようになりました。
しかし、ここで一つ疑問があります。
例えば、ある商品が売れなかったとします。
データを分析すれば、価格や購入率、競合商品との比較など、さまざまなことが見えてくるでしょう。
でも、その商品を手に取った人が、なぜ棚に戻したのか。
買おうかどうか迷った瞬間、何を感じていたのか。
本人でさえ、うまく言葉にできないことがあります。
そんな場面に直接立ち会うと、数字からは見えてこなかったことに気づかされることがあります。
これは、データと対話のどちらが優れているかという話ではありません。
見えているものが違うのだと思います。
データから見えること
購買履歴、行動傾向、比較された商品、選択の結果。大量の情報から全体の傾向や変化を捉えることができます。
直接向き合って見えること
迷った瞬間の表情、言葉にならない違和感、暮らしの背景。その場で問いかけることで、思いがけない理由に気づくことがあります。
人と人が向き合うことには、手間がかかる
私はこれまで20年以上、企業と生活者が直接向き合う場づくりに携わってきました。
企業の担当者と生活者が同じテーブルに座り、お互いに「さん付け」で呼び合う。
立場や肩書きをできるだけ意識せず、自由に話してもらう。
誰かの意見をすぐに否定しない。結論を急がない。
ときには、生活者の自宅を訪問したり、一緒に買い物をしたり、商品を使っている様子を見せてもらうこともあります。
正直に言えば、手間も時間もかかります。
多くの人から短時間で回答を集める方法に比べれば、決して効率的とは言えないでしょう。
でも、そこで思いがけないことが起こります。
何気ない一言から、企業が当たり前だと思っていたことが覆される。
商品を使う姿を見て、開発担当者が驚く。
最初は遠慮していた人が、いつの間にか自分の暮らしや思いを話し始める。
そして企業の担当者自身が、これまでとは違う視点で商品やサービスを考え始める。
こうした瞬間に何度も立ち会ってきました。
商品を棚に戻した、
その瞬間に理由を聞きました。
ある買い物同行では、生活者が商品を手に取り、しばらく迷った末に棚へ戻しました。
その場で理由を尋ねることで、購入されなかったという結果だけでは見えない、選択の背景を知ることができました。
データに残る「買わなかった」という結果。その手前にある迷いや理由を、現場で確かめた事例です。
現場ストーリー CASE010を読む →私が大切にしてきたのは、単に生活者の意見を集めることではありません。
そこに大きな意味があると思っています。
効率の悪さが、価値になる時代
少し前まで、アナログという言葉には、どこか古い、非効率といった印象がありました。
実際、デジタル化によって改善できることは、積極的に改善した方がよいと思います。
しかし、すべてを効率化することが、本当に豊かさにつながるのでしょうか。
人と会うために時間をつくる。
同じ場所で話をする。
相手の表情を見ながら、言葉を選ぶ。
すぐに答えが出なくても、考え続ける。
こうした時間は、効率だけで評価すれば、無駄に見えるかもしれません。
でも、その無駄に見える時間のなかに、信頼が生まれたり、新しい発想が生まれたりすることがあります。
私は、これからの時代、そうした価値が改めて見直されるのではないかと思っています。
もちろん、対面であれば必ず本音が出るわけではありません。
同じ場所に集まっても、立場の違いや遠慮があれば、本当に思っていることは話せないでしょう。
だからこそ、安心して話せる関係や場をつくることが大切なのです。
デジタルか、アナログか、ではない
ここまで書くと、アナログの方がよいと言っているように聞こえるかもしれません。
でも、そうではありません。
デジタルにはデジタルの強みがあり、リアルにはリアルの強みがあります。
大量の情報を整理し、傾向をつかむことは、デジタルやAIが得意とするところです。
一方で、相手の言葉にならない思いや、その場で生まれる気づき、関係性の変化には、直接向き合うことならではの価値があります。
どちらか一方を選ぶ必要はないと思います。
むしろ、それぞれの良さを理解し、うまく組み合わせることが、これからますます重要になるでしょう。
そして、技術が進歩すればするほど、私たちは改めて問い直すことになるのではないでしょうか。
何のために効率化するのか。
そして、何を大切に残していきたいのか。
これからも、人と人が向き合う場を大切にしたい
今回、自分自身が利用しているサービスで情報漏洩が起きたことをきっかけに、改めてそんなことを考えました。
最初は、個人情報を預けることへの不安から始まった小さな疑問でした。
でも、考えているうちに、私自身が長年大切にしてきたことにもつながっていきました。
情報漏洩への不安がなくなったとしても、デジタル技術が今よりずっと進歩したとしても、人と人が直接向き合うことの意味はなくならないと思います。
むしろ、便利な社会になればなるほど、その価値に気づく機会が増えるのかもしれません。
私はこれからも、企業と生活者が同じテーブルに座り、互いの言葉に耳を傾ける場を大切にしていきたいと思います。
効率だけでは測れない時間のなかに、企業にとっても生活者にとっても、新しい価値が生まれると信じているからです。
人間をもっと理解する時代へ。
そんな未来になればいいなと思っています。
FREE ONLINE CONSULTATION
顧客のことを、もっと深く理解したい。
データやアンケートでは見えてこない、
生活者の迷いや選択の理由。
それをどう商品づくりや事業の判断につなげるか。
まだ課題が整理できていなくても構いません。
まずは、今感じていることからお聞かせください。
代表が直接お話を伺います。土日祝日もご相談いただけます。
🗒️ コラム・運営視点 一覧へ