実務の位置づけは 価値共創マーケの基本と導入ガイド をご参照ください。
マーケティングの基本として知られるSTP(Segmentation・Targeting・Positioning)は、 「誰に」「何を」「どう違いを伝えるか」を整理するうえで、非常に有効な考え方です。
ただ、現代の市場では、生活者が単なる受け手ではなく、情報の発信者であり、比較者であり、ときに価値づくりの参加者にもなっています。 そのため、従来のように「分類して、狙って、差別化する」だけでは、心の深いところまで届きにくくなっています。
■ なぜ今、STPだけでは足りなくなってきたのか?
STPは、情報が限られていた時代にはとても合理的でした。市場を分け、狙う相手を定め、競合との違いを明確にすることで、 企業は効率よく商品やサービスを届けることができたからです。
しかし今は、同じ年齢・性別・地域に属していても、価値観も行動も驚くほど異なります。 さらに、生活者は企業から与えられる情報だけでなく、SNS、口コミ、動画、友人の投稿など、複数の文脈の中で商品を判断しています。
つまり、「誰向けか」を決めるだけでは足りず、「なぜ共感されるのか」「どう関係が育つのか」まで設計しなければ選ばれにくい時代になっているのです。
■ STPの限界①:セグメントでは“その人らしさ”が見えにくい
STPのSであるセグメンテーションは、本来とても便利な考え方です。市場を整理し、全体像をつかむうえでは欠かせません。 ただし、現場でこの考え方だけに頼ると、生活者を「属性の箱」に入れて見てしまう危うさがあります。
たとえば「30代女性」と一括りにしても…
同じ30代女性でも、自然派志向の人もいれば、機能重視の人もいます。 子育て中の人もいれば、一人の時間を大切にしている人もいます。 価格に敏感な人もいれば、少し高くても意味に共感できれば選ぶ人もいます。
この違いは、年齢や性別だけでは見えてきません。 つまり、属性ではなく「背景」「気持ち」「使う場面」「選ぶ理由」まで見ないと、本当の動機に届きにくいのです。
現代のマーケティングでは、単なるセグメントではなく、生活者の文脈を読み取る視点が必要です。 その文脈を知るには、数字や属性だけでなく、対話や観察、共感的なヒアリングが重要になります。
ペルソナ設定も「固定」ではなく「更新」する時代へ
STPと同じように、ペルソナ設定も「一度決めた人物像」を正解のように扱うと、 生活者の文脈や気持ちの変化を捉えにくくなります。 ペルソナを否定するのではなく、データ・対話・観察を通じて顧客理解を更新し続ける考え方については、 👉ペルソナ設定の時代は本当に終わったのか?生活者を固定せず、理解を更新し続ける共創マーケティングの視点 で詳しく解説しています。
■ STPの限界②:ターゲティングが“線引き”になりすぎることがある
ターゲティングは、「誰に届けるか」を明確にするためのものです。実務上も、限られた資源を集中させるうえで大切な考え方です。
ただし、これが強くなりすぎると、現場ではしばしば「この人たちは対象外」という発想につながります。 すると、本来は広がる可能性のあった共感や支持まで、企業側が先に閉じてしまうことがあります。
“若者向け”と決めた瞬間に起こること
たとえば「若者向けの商品」と決めると、若者に伝わりやすい表現にはなります。 その一方で、実際にはその商品に魅力を感じるかもしれない別世代との接点を、自ら狭めてしまうことがあります。
また、社内でも「これはターゲット外だから意見を聞かなくていい」という空気が生まれやすくなり、 生活者理解が浅くなる原因になることもあります。
もちろん、誰に届けるかを考えること自体は必要です。 ただ、これからの時代により重要なのは、「この人だけ」と切ることよりも、「どんな価値観の人とつながれるか」を考えることではないでしょうか。
■ STPの限界③:ポジショニングだけでは“選ぶ理由”になりにくい
ポジショニングは、競合と比較したときの立ち位置を明確にする考え方です。 「高品質」「低価格」「機能が多い」などは、わかりやすい差別化の軸です。
しかし今の生活者は、それだけで商品を選ぶとは限りません。 機能差が小さくなり、価格だけの勝負は消耗戦になりやすいからです。
つまり、生活者が求めているのは、スペック比較だけではなく、意味・共感・物語・関係性です。 ここに十分に応えようとすると、STPだけでは設計しにくい部分が出てきます。
「価格や機能では差が伝わりにくい」と感じていませんか?
そんなときは、ターゲット設定を細かくするより先に、生活者との対話から“選ばれる意味”を見つけるほうが突破口になることがあります。
データ分析や分類は重要ですが、それだけでは生活者の本音や文脈までは見えにくいこともあります。 👉データドリブンマーケティングだけでは不十分?共創マーケティングを組み合わせる意味とは では、数字で見えることと、共創によって深く理解できることの違いを整理しています。

■ STPを使っても商品が選ばれない5つの理由
STPを設定しているのに、思うように売れない。ターゲットもポジショニングも整理したはずなのに、生活者の反応が弱い。 その場合、問題はSTPそのものではなく、STPを支える顧客理解が浅いままになっていることにあるかもしれません。
1.ターゲット像が属性だけで止まっている
「30代女性」「子育て世帯」「健康志向層」といった属性は、市場を整理するには便利です。しかし、それだけでは、どのような場面で困り、何を大切にし、なぜその商品を選ぶのかまでは見えてきません。
2.社内でつくったペルソナを事実として扱っている
ペルソナは仮説です。ところが、社内で一度つくられた人物像が「顧客はこういう人だ」という前提になり、実際の生活者の声や行動で更新されないことがあります。
3.顧客の発言を、そのままニーズだと受け取っている
「もっと軽い方がよい」「安い方がよい」「かわいいものが欲しい」といった言葉は、答えではなく入口です。なぜそう感じたのか、どのような場面で必要なのかを掘り下げなければ、選ばれる理由には届きません。
4.競合との違いばかりを考えている
ポジショニングが競合比較だけになると、「他社より高機能」「他社より安い」といった差に偏りやすくなります。しかし生活者にとって重要なのは、競合との違いよりも、自分の暮らしにどのような意味があるかです。
5.商品を出した後に、仮説を更新していない
STPは一度決めて終わりではありません。市場に出した後の反応、使われ方、口コミ、想定外の購入者などを見ながら、ターゲットや価値の仮説を更新し続ける必要があります。
■ なぜ社内だけでは生活者の本音を捉えにくいのか

顧客理解を深めようとしても、社内だけで考えていると、どうしても見えにくいものがあります。これは担当者の努力不足ではなく、企業の中にいるからこそ生まれる構造的な難しさです。
自社商品の知識が、解釈の枠になる
商品の機能や開発背景を知っているほど、生活者の発言を自社にとって理解しやすい言葉へ置き換えてしまいます。本人は中立に聞いているつもりでも、無意識に「この機能を評価している」「価格が問題だ」と解釈してしまうことがあります。
企業が用意した選択肢の中で質問してしまう
「A案とB案ではどちらがよいですか」「この新機能をどう思いますか」という質問では、企業が決めた枠の中でしか答えが返ってきません。生活者の日常や困りごとから始めなければ、本当に必要な価値は見えてきません。
営業・企画・開発で、顧客像が異なる
営業は取引先の要望、企画は市場データ、開発は技術的な課題を見ています。それぞれが顧客を見ていても、見ている断面が異なるため、社内会議だけでは一つの生活者像につながりにくいことがあります。
アンケートでは、建前や一般論が集まりやすい
アンケートは全体傾向をつかむには有効です。ただし、本人も言葉にできていない迷い、矛盾、行動の背景までは見えにくく、実際の選択理由と回答が一致しないこともあります。
■ STPと共創マーケティングをどう組み合わせるのか

STPと共創マーケティングは、どちらか一方を選ぶものではありません。STPで市場と仮説を整理し、共創によってその仮説を現実に合わせて更新する。この組み合わせによって、戦略と生活者理解の両方を生かせます。
STPで仮説を整理する
市場を分け、誰に、どのような価値を届けたいのかを仮説として整理します。
生活者の文脈を知る
対話、買い物同行、利用場面の観察から、日常の困りごとや選択理由を捉えます。
仮説とのずれを見つける
社内で想定していた顧客像と、実際の生活者の行動や感情の違いを整理します。
インサイトを整理する
発言をそのまま要望として受け取らず、背景にある未充足や意味を読み解きます。
商品・サービスへ反映する
商品、サービス、売り方、伝え方のアイデアへ変換し、試作品として具体化します。
生活者と検証する
試作品や表現を生活者と確かめ、STPやペルソナを再び更新します。
■ 共創マーケティングとは? “共感と関係性”で選ばれる発想
共創マーケティングとは、顧客を「ターゲット」として一方的に捉えるのではなく、 価値づくりに参加するパートナーとして考えるアプローチです。
企業が用意したものを届けるだけではなく、生活者との対話や試作、気づきの共有を通じて、 商品やサービス、ブランドの意味そのものを一緒に育てていくのが特徴です。
対話する
アンケート回答だけでは見えない本音や背景を、会話や観察から丁寧に受け取ります。
一緒に考える
企業だけで決めるのではなく、生活者の視点を交えながら価値の方向性を探ります。
一緒に育てる
商品やブランドを出して終わりではなく、反応を見ながら改善し、関係性を深めていきます。
こうしたプロセスを通じて、STPでは拾いにくかった“意味”や“つながり”をマーケティングに取り込めるようになります。
STPと共創マーケティングの違いを図で見ると
STPは「分ける・狙う・差別化する」に強い考え方、 共創マーケティングは「対話し、共感を見つけ、一緒に育てる」に強い考え方です。
市場を整理し、効率よく届ける発想
- 1分ける:属性や市場で顧客を分類する
- 2狙う:誰に届けるかを明確にする
- 3差別化する:競合との違いを打ち出す
- 4届ける:企業から顧客へ価値を伝える
弱み:生活者の文脈や、共感・関係性までは見えにくいことがある。
対話から意味を見つけ、関係を育てる発想
- 1対話する:本音や背景、使う場面を知る
- 2理解する:属性ではなく価値観や文脈を見る
- 3一緒に考える:生活者の視点を交えて価値を磨く
- 4一緒に育てる:商品やブランドを関係性の中で育てる
特徴:顧客を「ターゲット」ではなく「共創パートナー」として捉える。
■ STPと共創マーケティングの違いを比較すると
STPマーケティングは、「分ける・狙う・差別化する」という整理に強い考え方です。 一方、共創マーケティングは、「対話する・共感を見つける・一緒に育てる」という関係構築に強みがあります。
どちらが正しい・間違っているというよりも、今の時代にはSTPだけでなく、共創の視点を重ねることが重要だと考えるとわかりやすいでしょう。
| 比較項目 | STPマーケティング | 共創マーケティング |
|---|---|---|
| 顧客の捉え方 | 市場を分け、狙う対象として整理する | 一緒に価値を育てるパートナーとして捉える |
| 顧客理解の起点 | 属性、市場データ、購買傾向 | 対話、観察、体験、生活者の文脈 |
| 主な問い | 誰に、何を、どう届けるか | なぜ選ぶのか、どんな意味を感じるのか |
| 価値の見つけ方 | 競合との違いや市場での立ち位置から考える | 生活者の本音や行動の背景から見つける |
| 商品開発の進め方 | 企業が仮説を立て、商品を市場へ届ける | 生活者と対話し、試作・検証しながら磨く |
| 情報の集め方 | 市場調査、アンケート、購買データ | 共創セッション、買い物同行、行動観察 |
| 差別化の考え方 | 機能、価格、品質などの比較 | 意味、共感、体験、関係性を育てる |
| 顧客との関係 | 商品や情報を届ける側と受け取る側 | 対話しながら価値を更新する関係 |
| 得意なこと | 市場を整理し、戦略の方向性を決める | 顧客理解を深め、選ばれる理由を具体化する |
| 注意点 | 顧客像が属性や社内の仮説で固定されやすい | 対話だけで終わると、成果につながりにくい |
| 実践のポイント | 仮説として活用し、定期的に見直す | インサイトを試作・検証・実行へつなげる |
| 最終的な役割 | 市場と届け方を整理する | 生活者とともに価値を磨き続ける |
| STPマーケティング | 共創マーケティング |
|---|---|
| 属性や市場構造で整理する | 価値観や文脈、関係性から理解する |
| 顧客は「狙う対象」になりやすい | 顧客は「一緒に価値を育てる相手」 |
| 差別化は競合比較が中心 | 共感・意味・参加感が価値になる |
| 企業から届ける発想が中心 | 生活者と対話しながら磨いていく |
| 効率よく届けることに強い | 中長期で選ばれ続ける関係づくりに強い |
特に中小企業では、広告費や知名度で大手と戦うのが難しい場面も少なくありません。 そのときに武器になるのが、価格競争ではなく、「共感される理由」や「応援したくなる関係性」を育てることです。
■ なぜ共創が、これからの「選ばれるマーケティング」になるのか
- 生活者が情報の主体者になったから
SNSやレビュー、動画投稿などにより、企業発信だけで印象が決まる時代ではなくなりました。 「企業が何を言うか」だけでなく、「どう関わっているか」が見られています。 - 差別化の軸が“意味”へ移っているから
似た商品が多い中で、最後に選ばれる理由になるのは、機能差だけではありません。 誰とつくったのか、どんな姿勢なのか、そこに共感できるかが重要になります。 - 社内にも良い影響があるから
共創は社外向けの施策であると同時に、社内にとっても意味があります。 生活者の声に直接触れることで、営業・企画・開発・広報などの視点がつながりやすくなります。
■ 共創マーケティングの実践は、特別なことから始めなくていい
共創というと、大がかりなワークショップや大人数のプロジェクトを想像されることがあります。 ですが実際には、もっと小さく始めることもできます。
たとえば、こんな実践から始められます
- 対話の場をつくる:顧客や生活者に「どう思うか」ではなく、「どんな場面でそう感じたか」を聞く
- 社内で気づきを共有する:営業や接客の現場で拾った声を、単なる報告で終わらせず、企画の材料に変える
- 試しながら改善する:完成してから売るのではなく、途中段階で反応を見ながら磨いていく
- 応援者と関係を育てる:買ってくれた人を終点にせず、継続的な対話の入口にする
大切なのは、最初から完璧な仕組みをつくることではありません。 「生活者を答え合わせの相手ではなく、一緒に考える相手として見る」ことから始めるだけでも、見える景色は大きく変わります。
STPの限界や、共創マーケティングが求められる理由はわかっても、 「では実際に何から始めればいいのか?」で止まってしまうことは少なくありません。 その全体像を整理したい方は、 価値共創マーケティング、まず何から?迷わない入門ガイド もあわせてご覧ください。
■ こらぼたうんが支援できること
こらぼたうんでは、STPやペルソナの考え方を説明するだけではなく、企業と生活者が実際に対話し、顧客理解を商品・サービスの改善へつなげるプロセスを支援しています。
現在のSTP・ペルソナ・顧客仮説の整理
すでに設定しているターゲットやポジショニングを確認し、どこが仮説で、どこに検証が必要なのかを整理します。
対話する生活者の選定
年齢や性別だけではなく、対象となる利用場面、選択行動、困りごとを持つ生活者を選定します。
生活者との共創セッション
商品評価だけに偏らず、日常の体験、感情、迷い、工夫を引き出す問いと対話の流れを設計します。
買い物同行・利用場面の観察
会議室の発言だけでは分からない、売り場での迷い、比較行動、手に取る理由、購入をやめる瞬間を観察します。
顧客インサイトの整理
発言や行動の背景にある未充足、矛盾、本人も言葉にできていない選択理由を整理し、価値の仮説へ変えます。
商品・サービス・売り方のアイデア創出
インサイトを起点に、商品機能だけでなく、体験、売り場、伝え方、営業資料などの改善案を考えます。
試作品や表現の生活者検証
完成後に評価を求めるのではなく、開発途中の試作品や表現を生活者と一緒に確認し、改善します。
営業・企画・開発を交えた社内ワークショップ
生活者の声を共通言語にし、部署ごとに異なる顧客像をつなぎながら、実行できる方向性を整理します。
市場導入までの伴走支援
共創で得た気づきを、商品化、営業提案、売り場表現、社内合意形成へ落とし込み、市場導入まで伴走します。
STPを否定するのではなく、生活者理解で更新する
こらぼたうんの支援は、フレームワークを新しいものへ置き換えることではありません。すでにある戦略や強みを、生活者との対話・観察・検証によって現実に近づけ、選ばれる価値へ育てていくことを重視しています。
■ まとめ:これからは“狙う”だけでなく、“関係を育てる”時代へ
STPは、今でも有効な基本フレームです。 ただし、生活者の多様性が高まり、意味や共感が重視される今の市場では、STPだけでは足りない場面が増えています。
これから重要になるのは、顧客を「ターゲット」として絞り込むことだけではなく、どんな関係を築き、どんな意味を共につくるかという視点です。
「価格や機能では差が伝わりにくい」「顧客理解をもっと深めたい」「新しい視点で商品やサービスを磨きたい」 そんなときこそ、共創の視点が力になります。
まずは実践の流れを知りたい方へ
共創マーケティングに興味はあるけれど、いきなり相談する前に全体像を整理したい方は、 「価値共創マーケティング、まず何から?迷わない入門ガイド」 もあわせてご覧ください。
■ STPやペルソナを、生活者の現実に合わせて見直してみませんか?
「ターゲットは決めているのに、商品の反応が弱い」 「顧客の声を聞いているが、企画や改善に生かしきれない」 「価格や機能以外の選ばれる理由を見つけたい」 「生活者との対話や買い物同行を、どう設計すればよいか分からない」
こらぼたうんでは、現在のSTPや顧客仮説を整理し、生活者との対話・観察・インサイト発見・試作検証を通じて、商品やサービスの価値を具体化するところまで伴走します。 課題がまだ明確になっていない段階や、小規模な共創から試したい段階でもご相談いただけます。
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