利益と幸福を対立させるのではなく、生活者に向き合うプロセスの中で、働く人の納得感と商品・サービスの価値を同時に育てていく。これからの商品企画と組織改革に必要な視点を考えます。
「幸せのためには、儲けが欠かせない」
そう言われることがあります。
一方で、「幸せなら、儲からなくてもいいのではないか」という考え方もあります。
どちらも一理あるように聞こえます。けれども、私はこの議論に、どこか違和感を覚えます。
その理由は、利益と幸福を天秤にかけているからです。
利益を優先すれば幸福が犠牲になる。幸福を優先すれば利益は後回しになる。本当にそうなのでしょうか。
そして、その力が商品やサービスの魅力となり、結果として利益につながっていく。
つまり、利益と幸福は対立するものではありません。
仕事の意味を感じながら働くこと。生活者の声に本気で向き合うこと。自分たちの仕事が、誰かの暮らしに役立っていると実感できること。
そうしたプロセスの中に、選ばれる商品やサービスの種があるのではないでしょうか。
幸福は、ゴールの先にあるものではない
私たちは、つい幸福を未来のゴールとして考えがちです。
- 売上目標を達成したら、幸せになれる。
- 会社が成長したら、幸せになれる。
- 地位や評価を得たら、幸せになれる。
- 経済的に余裕ができたら、幸せになれる。
もちろん、売上や利益、安定した経済基盤は大切です。事業を続けるうえで、利益は欠かせません。
けれども、幸福をいつも未来のゴールに置いてしまうと、現在のプロセスが犠牲になりやすくなります。
本当は大切にしたかった人間関係。本当は向き合いたかった仕事の意味。本当は届けたかった価値。本当は感じていた違和感。
そうしたものを後回しにして、ただ数字だけを追いかけてしまうことがあります。
商品企画やサービス開発でも同じです。
「売れるものをつくる」ことだけが目的になると、生活者の姿が見えにくくなります。
- 誰のための商品なのか。
- どんな暮らしの場面で使われるのか。
- どんな気持ちを支えるのか。
- その商品によって、生活者の毎日はどう少し良くなるのか。
こうした問いが置き去りになってしまうのです。
売上や利益は大切です。しかし、それだけを先に置きすぎると、商品やサービスはだんだん「売るためのもの」になっていきます。
一方で、生活者の暮らしや気持ちに本気で向き合うところから始めると、商品企画の質は変わります。
「これは本当に役に立つのか」 「この人にとって、どんな意味があるのか」 「どんな言葉なら、無理なく届くのか」 「どんな形なら、暮らしの中で自然に使ってもらえるのか」
こうした問いが生まれます。
そして、その問いに向き合うプロセスそのものが、働く人の納得感や手応えにつながっていきます。
幸福は、成果の先にだけあるものではありません。
生活者と向き合うこと。仲間と考えること。違和感を言葉にすること。まだ見えていない価値を探すこと。商品やサービスを少しずつ磨いていくこと。
その過程の中に、働く人の手応えが生まれます。
商品企画で大切なのは「売れるか」だけではない
商品企画の現場では、どうしても最初にこう考えがちです。
- 市場規模はあるか。
- ターゲットは誰か。
- 競合と比べて優位性はあるか。
- 価格はいくらなら買われるか。
- どの機能を加えれば差別化できるか。
もちろん、これらは重要です。事業として成立させるためには、冷静な分析も必要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
なぜなら、生活者は機能や価格だけで商品を選んでいるわけではないからです。
何となく気になる。自分に合っている気がする。この会社はわかってくれていると感じる。この商品なら使い続けられそうだと思う。誰かに勧めたくなる。
こうした感覚は、数字だけでは見えにくいものです。
アンケートで「良いと思います」と答えていても、実際には買わないことがあります。
逆に、最初はうまく言葉にできなかったものが、対話の中で深い本音として見えてくることもあります。
商品企画に必要なのは、生活者を単なる「購買対象」として見ることではありません。
その人の暮らしの中に入っていくこと。言葉にならない違和感や願いを受け止めること。表面的なニーズの奥にある気持ちを探ること。
そこから、選ばれる理由が見えてきます。
たとえば、健康食品を開発する場合
表面的には、生活者は「健康になりたい」と言うかもしれません。
しかし、その奥には、別の気持ちがあるかもしれません。
- 家族に迷惑をかけたくない。
- 年齢を重ねても自分らしくいたい。
- 忙しい毎日の中で、少しでも自分を大切にしたい。
- 甘いものを食べる罪悪感を減らしたい。
この本音に気づくと、商品づくりは変わります。
単に「低糖質」「高たんぱく」「機能性」といった訴求だけではなく、どんな場面で食べるのか、どんな量なら無理なく続けられるのか、どんなパッケージなら手に取りやすいのか、どんな言葉なら気持ちに寄り添えるのか。
こうした細部が変わっていきます。
商品に意味が宿るのは、この細部です。
そして、その細部に気づけるかどうかは、企画者自身が生活者にどれだけ誠実に向き合っているかにかかっています。
サービス開発では「機能」よりも「関係」が問われる
サービス開発でも同じことが言えます。
たとえば、学習塾や子ども向けサービスを考えるとします。
通常は、成績を上げる、受験対策をする、個別指導を充実させる、料金体系をわかりやすくする。こうした機能面が中心になります。
もちろん、それらは必要です。
しかし、保護者や子どもが本当に求めているものは、それだけではないかもしれません。
保護者は「子どもの可能性をつぶしたくない」「勉強嫌いになってほしくない」「家で怒ってばかりの関係を変えたい」「自信を持ってほしい」と思っているかもしれません。
子どもは「間違えるのが怖い」「できない自分を見られたくない」「どうせ無理だと思っている」「でも本当は認められたい」と感じているかもしれません。
そう考えると、開発すべきサービスは単なる「成績アップ講座」ではなくなります。
子どもが安心して挑戦できる場。保護者が子どもを責めずに見守れる仕組み。小さな成長を見える化するコミュニケーション。先生が一方的に教えるのではなく、子どもの変化を一緒に喜べる関係。
こうしたものが、サービスの価値になります。
サービスは、提供して終わりではありません。利用者との関係の中で価値が育っていきます。
だからこそ、サービス開発では、機能だけでなく、関係の設計が重要になります。
- どんな気持ちで始めてもらうのか。
- どんな不安を取り除くのか。
- どんな瞬間に「続けたい」と感じるのか。
- どんな接点で信頼が深まるのか。
この視点があると、サービスは単なるメニューではなく、体験になります。
そして、その体験をつくるのは、そこで働く人たちです。
働く人の納得感が、商品やサービスの力になる
商品やサービスの価値は、企画書だけで決まるわけではありません。
開発する人。販売する人。説明する人。問い合わせに対応する人。改善を続ける人。
多くの人の関わりによって、価値は生活者に届いていきます。
だからこそ、働く人がその商品やサービスに納得しているかどうかは、とても重要です。
「これは本当に良いものだ」 「この人たちに届けたい」 「この価値は伝える意味がある」 「自分の仕事は誰かの役に立っている」
そう思える商品やサービスは強いです。
営業の言葉に熱が入ります。販促の表現が表面的ではなくなります。開発の改善意欲が高まります。現場の対応にも誠実さが出ます。
逆に、働く人が納得していない商品は、どこか弱くなります。
資料は整っている。機能もある。価格も悪くない。でも、伝える人に熱がない。
これでは、生活者の心は動きにくいでしょう。
利益は、商品そのものだけで生まれるのではありません。
働く人の納得感。生活者への誠実なまなざし。社内の連携。現場の対応。伝える言葉の温度。
そうしたものが重なって、信頼が生まれます。そして、その信頼が、購買やリピート、紹介につながっていきます。
商品企画における当事者意識や「やってみたい人」の巻き込み方については、 「やらされ感」のチームは止まる。「やってみたい人」のチームは提案が止まらない でも詳しく解説しています。
縦割り組織では、生活者の姿が見えにくくなる
しかし、多くの組織では、生活者の姿が部門ごとに分断されがちです。
- 企画部はコンセプトを考える。
- 開発部は仕様を決める。
- 営業部は売り先を考える。
- 販促部は伝え方をつくる。
- 現場はお客様対応をする。
それぞれが一生懸命働いています。
しかし、見ているものが違うと、判断基準もズレていきます。
企画部は「新しさ」を重視する。開発部は「実現可能性」を重視する。営業部は「売りやすさ」を重視する。販促部は「伝わりやすさ」を重視する。現場は「お客様の反応」を重視する。
どれも大切です。
問題は、それらがつながっていないことです。
ある部門では「参考意見」。別の部門では「クレーム」。また別の部門では「営業情報」。さらに別の部門では「一部の感想」。
本来なら、新しい価値の種になるはずの声が、組織の中でバラバラに扱われてしまいます。
これでは、商品やサービスの改善は進みにくくなります。
縦割り組織の弊害と、部署の壁を顧客価値でつなぎ直す考え方については、 縦割り組織の弊害を共創で乗り越える──部署の壁を顧客価値でつなぎ直す方法 でも詳しく整理しています。
組織を変えるには、同じ生活者の声を一緒に聞くこと
組織を変えるためには、制度や組織図を変えるだけでは不十分です。
もちろん、評価制度や会議体、役割分担の見直しも必要です。
しかし、それだけでは人の行動は大きく変わりません。
大切なのは、働く人たちが何を見て、何を感じ、何を判断の基準にするかです。
その意味で、生活者との共創の場は、組織を変える力を持っています。
- 共創セッション。
- 買い物同行。
- 観察。
- 対話。
- 試作品への反応確認。
こうした場に、複数の部門の人が一緒に参加すると、社内の会話が変わります。
企画担当者は、生活者の曖昧な言葉の奥にある本音に触れる。開発担当者は、仕様ではなく使われる場面を見る。営業担当者は、売り文句ではなく選ばれる理由を知る。販促担当者は、響く言葉の背景を理解する。経営者は、数字の奥にある生活者の実感をつかむ。
同じ生活者の声を、同じ場で聞く。同じ表情を見る。同じ違和感を感じる。同じ発見に驚く。
これが、組織にとって非常に大きな意味を持ちます。
なぜなら、生活者の実感が、部門を越えた共通言語になるからです。
「営業としてはこう思う」 「開発としてはこう考える」 「企画としてはこうしたい」
という部門ごとの主張から、
「あの生活者の言葉をどう受け止めるか」 「あの使い方を考えると、ここは変えるべきではないか」 「あの不安を取り除くには、伝え方も変えたほうがいい」
という会話に変わっていきます。
この変化が、組織改革の出発点になります。
部署横断で生活者の声を共有し、企画・デザイン・営業の噛み合わせを整える考え方については、 企画×デザイン×営業が噛み合うと、価値は一気に跳ねる でも具体的に紹介しています。
共創は、商品を変えるだけでなく、社員の働き方を変える
共創マーケティングの価値は、生活者の声を商品に反映することだけではありません。
むしろ、大きな価値は、生活者と向き合うプロセスを通じて、社内の人たちの働き方が変わることにあります。
生活者の言葉に触れることで、社員は気づきます。
- 自分たちが思っていたニーズと違った。
- 良いと思っていた機能が、実は伝わっていなかった。
- 価格ではなく、使う場面の安心感が大事だった。
- デザインの評価は高いのに、買う理由にはなっていなかった。
- 何気ない一言の中に、選ばれる理由が隠れていた。
こうした気づきは、机上の資料だけでは生まれにくいものです。
そして一度、生活者の実感に触れると、仕事の見え方が変わります。
会議での発言が変わる。企画書の書き方が変わる。営業資料の言葉が変わる。開発時の優先順位が変わる。販促の表現が変わる。お客様対応の姿勢が変わる。
つまり、共創は商品を変えるだけでなく、商品を生み出す人と組織を変えていくのです。
実際に、生活者との共創を通じて社員の意識や社内の会話が変わっていく様子は、 「社員が変わった」共創マーケティングが生んだ“社内変革”のリアル でも紹介しています。
働く人が「仕事を味わう」と、細部に魂が宿る
幸せに働く人は、仕事をただこなしているのではありません。
仕事を味わっています。
これは、楽をしているという意味ではありません。
むしろ、深く向き合っているということです。
- 生活者の言葉を味わう。
- 使われる場面を想像する。
- 小さな違和感を見逃さない。
- 仲間の意見に耳を傾ける。
- 商品やサービスが持つ意味を考える。
- 伝える言葉を丁寧に選ぶ。
この姿勢が、細部に表れます。
パッケージの一言。売り場での見せ方。サービス開始時の説明。問い合わせへの返答。提案資料の表現。商品名のニュアンス。価格のつけ方。
生活者は、意外とこうした細部を感じ取っています。
「なんとなく自分に合っている」 「この会社はわかってくれている」 「無理に売ろうとしていない」 「ちゃんと考えられている」 「安心して選べる」
そう感じたとき、人は商品やサービスに信頼を寄せます。
そして信頼は、広告費だけではつくれません。
働く人の姿勢。組織の考え方。生活者との向き合い方。
それらが積み重なって、信頼になります。
利益は「ありがとう」の集積として生まれる
利益というと、売上からコストを引いた数字として捉えられます。
もちろん、経営上はその通りです。
利益がなければ、事業は続きません。働く人を守ることも、次の商品開発に投資することもできません。
しかし、商品企画やサービス開発の視点で見ると、利益にはもう一つの意味があります。
それは、生活者からの「ありがとう」の集積です。
「これが欲しかった」 「助かった」 「使ってよかった」 「また利用したい」 「誰かに勧めたい」 「この会社を信頼できる」
そうした気持ちが積み重なった結果として、売上や利益が生まれます。
だからこそ、利益は幸福と対立するものではありません。
生活者にとって意味のある価値を届ける。働く人がその仕事に納得感を持つ。組織が部門を越えて生活者を見つめる。その結果として、信頼され、選ばれ、利益が生まれる。
この流れこそ、これからの時代に必要な商品企画と組織づくりではないでしょうか。
これからの組織に必要なのは、生活者を共通言語にすること
これからの商品企画やサービス開発では、機能や価格だけで差別化することがますます難しくなります。
情報はすぐに広がります。競合もすぐに似た商品を出します。便利さや安さだけでは、長く選ばれ続ける理由にはなりにくくなっています。
だからこそ、組織全体で生活者を見つめることが重要です。
生活者は、単なるターゲットではありません。価値を一緒に見つける相手です。
生活者の声は、単なるデータではありません。新しい価値の入口です。
生活者との対話は、単なる調査ではありません。社員が仕事の意味を取り戻す機会でもあります。
組織の中に、生活者の実感が流れ込む。その声をもとに、部門を越えて対話する。その対話から、商品やサービスの改善が生まれる。その改善を通じて、働く人が手応えを感じる。そして、その手応えが次の挑戦につながる。
この循環が生まれたとき、組織は強くなります。
まとめ:選ばれる商品は、働く人と組織の姿勢から生まれる
幸せに働くことと、利益を生み出すことは、対立するものではありません。
むしろ、生活者に誠実に向き合い、仕事の意味を感じながら働く人たちがいるからこそ、商品やサービスに深みが生まれます。
その深みは、機能や価格だけでは伝えきれない価値になります。
生活者は、その価値に共感し、信頼し、選びます。そして、その信頼の積み重ねが、売上や利益につながっていきます。
商品企画やサービス開発において大切なのは、「どうすれば売れるか」だけを考えることではありません。
大切なのは、誰のどんな暮らしに、どんな意味ある変化を生み出すのかを問い続けることです。
そして、その問いを、企画部門だけでなく、開発、営業、販促、現場、経営層が一緒に考えることです。
生活者と向き合うことは、商品を変えるだけではありません。
社員の働き方を変えます。組織の会話を変えます。判断基準を変えます。そして、利益の生まれ方を変えていきます。
これからの組織に求められるのは、数字を追うことをやめることではありません。
数字の奥にある生活者の実感を見つめることです。売上の奥にある「ありがとう」を感じることです。そして、働く人自身が、仕事をこなすのではなく、味わうことです。
そこから、本当に選ばれる商品やサービスが生まれていくのだと思います。
生活者視点で、商品企画と組織の動きを変えていきませんか
こらぼたうんでは、生活者との共創セッション、買い物同行、観察、対話を通じて、商品・サービスの価値づくりと社内の共通言語づくりを支援しています。
「生活者の声を商品企画に活かしたい」「部署を越えて顧客価値でつながる組織にしたい」と感じている方は、お気軽にご相談ください。
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