この記事は価値共創マーケティングの全体像(基本・ポイント・導入法)で紹介しているテーマの一部を掘り下げた内容です。実務で使えるコツや事例を中心に解説します。
良かれと思ってやっているのに、なぜかズレていく。
その原因は、方法論よりも“前提”にあるかもしれません。
共創も、顧客理解も、アンケートも、本来はとても有効な手段です。
それでもうまくいかないときは、やり方以前に、何を期待していたか・どんな関係で臨んでいたかを見直す必要があります。
「顧客の声を取り入れたのに、反応が弱い」「ワークショップを開いたのに、本音が出てこない」「アンケート結果に沿って改善したのに、売上につながらない」。 こうした“うまくいかなさ”は、担当者の努力不足でも、参加者のせいでもありません。多くの場合は、善意で進めているからこそ起きるズレです。 この記事では、共創や顧客理解が空回りしやすい理由を、よくある誤解のパターンから整理し、そこをどう乗り越えていけばよいかを考えます。
こんな状況に心当たりはありませんか?
- ワークショップをやったのに、表面的な意見しか出てこない
- 顧客の声を反映したはずなのに、手応えが薄い
- アンケート結果はあるのに、企画の方向に確信が持てない
- ペルソナは作ったが、実際の顧客像が見えてこない
- 「良いことをしているはず」なのに、現場でズレを感じる
はじめに:「うまくいかない」のは誰のせいでもない
商品開発やサービス改善の現場では、「顧客の声を反映したつもりなのに反応が悪かった」「調査もしたし、アンケートもとったのに結果につながらない」といった話がよくあります。
また、共創の場をつくったのに思ったようなアイデアが出てこない、参加者に本音で話してもらえない、せっかく集まった声が企画に落とし込みきれない――そんな経験をしたことのある方も少なくないはずです。
こうしたとき、つい「進め方が悪かったのでは」「ファシリテーション不足だったのでは」と考えがちです。もちろん技術的な改善余地はあります。 ですが本当に見直したいのは、もっと手前にある“前提”や“期待の置き方”かもしれません。
共創も顧客理解も、方法そのものが悪いのではありません。
うまくいかないのは、「それを何のために、誰と、どんな関係でやるのか」という前提が曖昧なまま進んでしまうからです。
第1章:「共創はいいこと」という思い込みが、うまくいかなさを招く
1-1. 共創とは“場をつくること”だと思っていないか?
「共創をやりましょう」と言って、ワークショップや座談会を開く企業は増えています。これは前向きな変化です。 ただし、共創が“イベントを開くこと”に置き換わってしまうと、本質から離れていきます。
大切なのは、場を設けたこと自体ではなく、その場で何を共につくろうとしているのかです。 どんな問いを持ち寄るのか。誰のどんな経験を大事にするのか。そこが曖昧なままだと、どれだけ立派な会を開いても、実態は「意見を聞くイベント」で終わってしまいます。
1-2. “意見がたくさん出た”=成功、ではない
ワークショップ後に、「たくさんの声が集まりました」と報告されることがあります。 もちろん発言が出ること自体は悪くありません。ですが、集まった声がバラバラで、結局どう活かすのか分からない――ということもよく起きます。
共創とは、単に数多くの意見を集めることではありません。 関係性の中で、ばらばらの発言の奥にある“意味”を一緒に見つけていくことです。 数が多いほど良いのではなく、対話の深さと、そこから何が見えてきたかが重要です。
1-3. 企業は“共創したい”が、参加者は“そこまで期待していない”こともある
ここで見落とされやすいのが、仕掛ける側と参加する側の温度差です。 企業側は「一緒に考えたい」と思っていても、参加者は「感想を少し言う場」くらいに捉えていることがあります。
この認識のズレがあると、企業は深い対話を期待し、参加者は軽い参加を想定しているため、お互いに肩透かしになります。 共創は、“来てもらえば自然に起きるもの”ではなく、関係の設計が必要なプロセスなのです。
共創が空回りしやすい典型パターン
- 「とにかく場をつくれば何か出る」と思っている
- 発言量が多いことを成果と見なしている
- 参加者の期待値や関わり方を設計していない
- 集まった声の意味づけが社内で止まっている
第2章:「顧客理解」の罠──聞いているようで、聞いていない
2-1. 顧客の“声”は聞いている。でも“生活”は見ていない
多くの企業は顧客の声を重視しています。アンケート、インタビュー、レビュー分析など、さまざまな方法で声を集めています。 けれども、その声を言葉の表面だけで扱ってしまうと、本当の理解には届きません。
たとえば「使いにくい」「もっと簡単にしてほしい」という言葉があったとしても、その背景は人によってまったく違います。 時間がないのか、疲れているのか、家族との関係が影響しているのか、情報量の多さに圧倒されているのか。 言葉の奥にある暮らしの流れや感情を見ないまま改善すると、表面的な対応に終わりやすくなります。
2-2. 顧客の“答え”に頼りすぎると、むしろ見えなくなる
「この商品は買いたいですか?」「どのデザインが好みですか?」といった質問は、答えを得やすい一方で、生活者がすでに自分で言語化できている範囲しか引き出せません。
しかし実際のニーズは、多くの場合もっと曖昧です。 人は、自分の本当の困りごとや欲求を、最初からきれいに説明できるとは限りません。むしろ、「なんとなく違和感がある」「こうしたいけど言い切れない」といった、未整理な感覚の中に重要なヒントがあります。
だからこそ、ヒアリングで大事なのは“答え”だけではありません。 迷い、言いよどみ、矛盾、ためらいといった、整理されていない瞬間に注目することが必要です。
2-3. ペルソナを作ったら、分かった気になっていないか?
ペルソナは便利な道具です。チーム内の共通認識を作るには役立ちます。 ただし、それが固定化すると、「想像の中の顧客」が本物の顧客を上書きしてしまう危険があります。
本来、顧客像は作って終わりではなく、観察・対話・同行・体験共有の中で更新され続けるものです。 実際の接点を持たずにペルソナだけを磨いていくと、理解が深まるどころか、現実から離れていくことさえあります。
「相手の文脈に触れ続けられること」に近いのかもしれません。
第3章:アンケートをとってもうまくいかない“構造的理由”
3-1. アンケートは“限定された問い”の世界である
アンケートで得られるのは、基本的に「事前に用意された問い」に対する答えです。 つまり、問い方そのものに企業側の前提が強く反映されます。
ここで怖いのは、問いがズレていても、その枠の中で綺麗な結果が返ってくることです。 数字が揃うと安心できますが、本当に見たいものがそこに含まれているとは限りません。
本当に知りたいのは「どれを選ぶか」ではなく、「そもそも何に引っかかっているのか」「どんな背景でそう感じるのか」というレベルの話であることも多いのです。
3-2. “回答者”が、本当に知りたい相手とは限らない
アンケートには、さまざまな人が含まれます。
- 代理で答えている人
- 興味はあるが実際には購入しない人
- なんとなく回答した人
- 本当の使用場面を持っていない人
こうした人が混ざると、サンプル数が多くても、その数字が「誰の、どの文脈の声なのか」が見えにくくなります。
数値の安定感はあっても、企画に必要なリアリティが抜け落ちている。 そんな状態では、意思決定の参考にはなっても、強い企画の核にはなりにくいのです。
3-3. 数字は“傾向”を教えてくれるが、“意味”までは教えてくれない
「〇〇%の人が選んだ」「△△の評価が高かった」というデータは、傾向をつかむには役立ちます。 ただし、そこには「なぜそう思ったのか」「どんな状況でそう感じたのか」「何と迷っていたのか」は含まれていません。
つまりアンケートは、“問いを深めるきっかけ”にはなっても、“そのまま答えになる”わけではないのです。 数字の後ろにある生活背景を見ないまま企画に落とすと、ズレが残ります。
アンケートが得意なこと
傾向を見る、全体感を把握する、仮説の方向性を確かめる。
アンケートだけでは弱いこと
感情の揺れ、使う場面、迷い、言語化されていない欲求の発見。
第4章:では、どうすればよいのか──“誤解”を超えていく視点
4-1. 「対話」と「観察」に立ち戻る
生活者のリアルに近づく方法として、遠回りに見えて実は近道なのが、対話と観察です。 一緒に買い物する、使う場面を見る、雑談の中で暮らしの流れを聞く。そうした接点の中には、アンケートや表面的なインタビューでは出てこないヒントがあります。
- 店頭での買い物に同行する
- 使っている場面を観察する
- 日常の会話の中で迷いや工夫を聞く
- 試作品を前にした反応を一緒に見る
こうしたプロセスの価値は、答えをもらうことではなく、文脈の中で相手の気持ちや行動に触れられることにあります。
4-2. “答えをもらう”のではなく、“答えを一緒に見つける”へ
共創や顧客理解がうまくいく現場では、企業は「顧客から正解を教えてもらう」姿勢ではいません。 むしろ、対話や試行錯誤を通じて、まだ言葉になっていない違和感や価値を一緒に見つけていくスタンスを持っています。
企業と生活者は、情報を渡す側ともらう側ではなく、意味を育てる共演者。 そう捉えることで、顧客理解は“調査”から“関係づくり”へと変わっていきます。
4-3. 「声を拾う」から「文脈ごと聴く」へ
同じ「使いにくい」という言葉でも、それを誰が、どんな場面で、どんな気持ちで言っているのかによって意味は変わります。
- 忙しい親が言う「使いにくい」
- 高齢者が言う「使いにくい」
- 子どもと一緒に使う人が言う「使いにくい」
これらは同じ言葉でも背景が違います。 だからこそ必要なのは、声だけを切り出して拾うのではなく、その人の暮らしや関係性ごと理解する「文脈理解」です。
第5章:うまくいかないときに見直したい3つの問い
私たちは「何を得たい」のではなく、「何を一緒に見つけたい」のか?
意見を集めたいのか。違和感を見つけたいのか。新しい価値の芽を探したいのか。 ここが曖昧だと、場の設計も、聞き方も、活かし方もぶれていきます。
私たちは“声”を聞いているのか、“文脈”に触れているのか?
発言だけを集めて満足していないか。 その人の暮らし方、使う場面、迷い、感情の流れまで見ようとしているか。 ここで理解の深さが大きく変わります。
この取り組みは、相手にとっても「一緒に考える場」になっているか?
企業側だけが期待を膨らませていないか。 参加者にとっても、安心して話せる、意味がある、関われる場になっているか。 共創は、関係の設計なしには深まりません。
おわりに:うまくいかないのは、方法ではなく“前提”のせいかもしれない
この記事で取り上げた「共創」「顧客理解」「アンケート」は、どれも本来は非常に有効な手段です。 けれども、「共創すればうまくいく」「顧客に聞けば分かる」「アンケートをとれば見えてくる」といった期待をそのまま置いてしまうと、かえってズレが深まることがあります。
うまくいかないときに見直したいのは、テクニック以前のスタート地点です。 どんな問いを立てていたか。誰とどんな関係で向き合っていたか。何を一緒に見つけようとしていたか。 その前提が変わるだけで、同じ手法でも得られるものは大きく変わります。
答えは、方法論の中だけにあるのではなく、人と人の間でやりとりされる意味の中にあるのかもしれません。
“良かれと思った”がズレていくのは、珍しいことではありません。
だからこそ必要なのは、方法を増やすことよりも、前提を整えること。
共創や顧客理解を本当に機能させるためには、声を集める前に、関係と問いを設計することが欠かせません。
共創や顧客理解が「やっているのに手応えがない」と感じている企業さまへ
こらぼたうんでは、生活者との対話や共創セッションの設計を通じて、“声を集めるだけ”で終わらない顧客理解の進め方を支援しています。
「アンケートはあるが企画に落ちない」「ワークショップが表面的になる」といった状態でも、前提を整理することで見え方が変わることがあります。
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