■ はじめに:アンケートでは見えない“気づき”を求めて
「なぜこの商品を選んだのか」「その棚の前で何を迷っていたのか」──
生活者の行動には、企画書や統計データには表れない“選ばれる理由”が潜んでいます。
こらぼたうんでは、価値共創マーケティングを実践する中で、クライアントであるメーカーの担当者と一緒に、実際の買い物現場を訪れ、「買い物同行(ショッピング・エスノグラフィー)」という手法を取り入れています。
この買い物同行こそが、“生活者の視点”を肌で感じながら、価値共創のスタートラインに立つための貴重な場となっているのです。
■ なぜ「買い物同行」なのか?
現代の消費は複雑です。機能・価格・ブランド・習慣・感情……人はさまざまな要因を無意識に考えながら商品を選んでいます。
どんなに綿密なリサーチをしても、数字や言葉だけでは見えてこない「心の動き」や「選択の瞬間」があります。
そこで有効なのが、「買い物同行」です。これは、生活者の買い物に企業担当者やファシリテーターが同行し、観察と対話を通じて、リアルな意思決定プロセスを共有する手法です。
単なる“ヒアリング”ではなく、
- 棚の前で迷った表情
- 商品を手に取っては戻すしぐさ
- 比較対象に挙がった意外な商品
こうした行動の“間”に、深いインサイトのヒントが眠っているのです。
■ こらぼたうん式「買い物同行」3つの特徴
1. メーカー担当者も「生活者」として同行
「売る側」ではなく「生活者の目線」で店頭を歩いてもらいます。
たとえば、「自社商品が並ぶ棚を、他人として見たとき、何を感じるか?」
ある担当者は、「あ、うちの商品って意外と地味に見えるんですね……」とつぶやきました。これは、自席でパッケージを何度も見ているだけでは気づけなかったことです。
第三者としての視点を得ることで、既存の“自社常識”から脱却できるのです。
2. 対話型のファシリテーション
買い物中は、私たちファシリテーターがあえて“質問攻め”はしません。
「何を選びましたか?」ではなく、「どれと迷いましたか?」「どうしてその棚に引き寄せられました?」といった、さりげない問いかけや雑談を通じて、参加者の“無意識の選択”を引き出します。
その中で、「これは夫が使うから」「ちょっと高くても時短になるから」といった、生活の背景や価値観が浮かび上がってきます。
3. 現場から持ち帰る“気づきの種”
買い物同行のあとには、必ず「気づきメモ」の共有と振り返りの時間を設けます。
同行時のメモには、
- A社の製品は棚の目線にあった
- B社のパッケージは遠目でも目立っていた
- 試食していたC社の商品には思わず手が伸びた
といった細かな観察が並びます。
しかし、その先にあるのは「私たちはどう捉えられているのか?」という本質的な問いです。買い物同行は、それに答える“リアルな鏡”となるのです。
■ 中小企業にもこの方法が向いている理由
「うちの会社ではそんな余裕ないよ」「大手みたいにマーケティング部署もないし」そんな声もよく聞きます。
しかし、むしろ中小企業にこそ、この買い物同行のようなアプローチはぴったりです。
- 小回りがきく:現場の声をすぐに製品改善に活かせる。
- 顔の見える関係が築きやすい:生活者と“共につくる”関係性が生まれやすい。
- 一度の体験が全社の意識を変える:「なるほど!」の納得感が生まれる。
特別な設備や大きな予算は必要ありません。必要なのは、「一緒に買い物をする」というシンプルな姿勢だけです。
■ 買い物同行から生まれた“気づき”の一例

▲ メーカー担当者と共に買い物に同行し、自然な対話から見えてくる“選ばれる理由”
実際に買い物同行に参加したメーカーの担当者からは、さまざまな“目からうろこ”の声があがります。商品や売場を日々見慣れているはずの彼らが、生活者と一緒に売場に立つことで、まったく違った景色を見始めるのです。
「普段なら気にも留めない他社商品に、生活者がじっと目を向けているのを見てドキッとした」
ある担当者は、生活者が自社商品ではなく、思いもよらない競合商品を手に取り、その理由を何気なく語る場面を目の当たりにしました。それは、「価格」や「機能」だけではなく、「見つけやすさ」「なんとなく手に取りたくなる感じ」といった、普段の企画会議では語られない基準でした。
「うちの商品、棚にあるのに“見えていない”ことがあるんですね…」
別の担当者は、生活者が自社商品の前を素通りしたり、近くにいても全く気づいていないことにショックを受けていました。
「こんなに工夫してPOPを作ったのに…」「ロゴが目立たないって言われて初めて気づいた」──そんな気づきが、価値共創の最初の一歩となるのです。
また、生活者との自然な会話の中で「昔から使ってるから」「なんとなく安心感があるから」といった、数字には表れない選ばれ方があることにも気づかされます。
こうした体験を通じて、多くの担当者が「売る側」から「使う側」へと視点をシフトしていきます。
買い物同行は、単なる観察ではなく、自分たちの“常識”に揺さぶりをかける体験なのです。
■ 買い物同行=生活者との“共創のはじまり”
こらぼたうんが考える「共創」とは、アイデア会議やワークショップの場だけではありません。
買い物同行のような、“日常に寄り添う時間”そのものが共創の入口なのです。
- 何気ない選択
- さりげない目線
- 思いがけないひとこと
それらのすべてが、価値共創の“素材”になります。
そして、生活者の言葉や行動を、ただの「情報」ではなく「共に育てる価値」として受け止めたとき、企業と顧客の関係性は変わっていきます。
■ まとめ:「ともに歩く」から始まる、ほんとうのマーケティング
買い物同行は、言ってしまえばただ一緒に店内を歩くだけのことです。
けれど、その“歩く時間”には、企画会議100回分の気づきが詰まっていることがあります。
「売れる商品」を目指すより、「使いたいと思ってもらえる商品」を目指す。
そのためには、“誰と、どう歩くか”が何よりも大切です。
こらぼたうんは、これからも企業と生活者の間をつなぐ「共創の案内人」として、現場の声に寄り添いながら価値を一緒に育てていきます。