企業担当者は「要するに」で整理しやすく、生活者は「そういえば」から語りやすい。
一見すると噛み合いにくいこの違いは、実は価値共創の場では大きな強みになります。
人間と人間が出会い、考え方の違いが行き来するからこそ、企業の中だけでは生まれにくい面白いアイデアが形になっていくのです。
この記事の要点
価値共創が面白いのは、単に「顧客の声を聞く」からではありません。
企業担当者の構造化する力と、生活者の現場感ある気づきが交わり、
「要するに」と「そういえば」を何度も往復することで、新しい価値の輪郭が見えてくるからです。
会議の中で、こんなやりとりを見たことはないでしょうか。
「要するに、何が言いたいの?」
「そういえば、こんなこともありますよね」
前者は話を整理し、結論へ向かおうとする人。
後者は現場の空気やちょっとした違和感から発想を広げていく人です。
どちらが正しい、どちらが優れている、という話ではありません。
むしろ、どちらも組織には欠かせない存在です。
ただ、この二つの思考はしばしばぶつかります。
整理したい人からすると、話があちこちに飛ぶのは非効率に見える。
一方で、ひらめきから話したい人からすると、最初から枠にはめられると、せっかくの発想がしぼんでしまう。
企業の中でもよく起きることですが、これは価値共創の場でも同じです。
そして実は、この違いこそが、価値共創を面白くする大きな理由でもあります。
図1:企業担当者の「要するに」と、生活者の「そういえば」は、方向が違うからこそ補完関係になります。価値共創は、その間を往復することで新しい価値の輪郭をつくる営みです。
企業担当者は「要するに」で考えやすい
企業の担当者、とくに企画、営業、マーケティング、管理職の立場にいる人は、 どうしても「要するに」で物事を考える場面が増えます。
- 要するに、何が目的なのか
- 要するに、誰に向けたものなのか
- 要するに、どんな成果につながるのか
- 要するに、何を優先すべきなのか
こうした思考は、仕事を前に進めるためにとても大切です。
組織では、限られた時間、限られた予算、限られた人員の中で判断しなければなりません。
話を整理し、構造化し、優先順位をつける力がなければ、物事は進まなくなります。
たとえば「売上を上げたい」というテーマでも、 まず最初に「新規客を増やすのか」「リピートを増やすのか」「客単価を上げるのか」といった整理から入ることが多いでしょう。
これはまさに、根から幹、幹から枝へとたどっていくような考え方です。
全体像を描き、その中でどこを強くするかを見定めていく。
この力は、事業を成立させるうえでとても重要です。
ただし、強みには裏側もあります。
整理する力が強いほど、既存の枠の中で考えやすくなり、
まだ言葉になっていない小さな違和感や、説明しきれない魅力をこぼしてしまうことがあります。
生活者は「そういえば」から語りやすい
一方で、生活者の発想は少し違います。
- そういえば、ここ使いづらい
- そういえば、買うときにちょっと迷った
- そういえば、こういう気分のときに手に取りたくなる
- そういえば、こうだったらうれしい
生活者は、日々の暮らしの中で商品やサービスに接しています。
会議室の中で整理された言葉よりも、暮らしの中の小さな感情や場面に近いところにいます。
だからこそ、その発想は枝葉から始まることが多い。
企業側から見ると「話が飛んでいる」ように見えることもありますが、
その枝葉の中には、調査票や数字だけでは見えにくいリアルが含まれています。
「この色が好き」ではなく、「台所に置いたときにちょっと気分が上がる」と語られることもある。
こうした断片の中に、企業が見落としていた価値の芽が眠っています。
企業の中だけでは、面白いアイデアが出にくいことがある
企業の中には、経験も知見もあります。データもあります。
それでも、ときどき「きれいにまとまっているけれど、どこか既視感がある」という企画が生まれてしまうことがあります。
その理由の一つは、企業の中ではどうしても 説明できること、通しやすいこと、失敗しにくいことに寄りやすいからです。
社内会議では、 「それは誰向けなのか」 「市場規模はあるのか」 「既存商品とどう違うのか」 「再現性はあるのか」 といった問いが早い段階で並びます。
これらはもちろん重要です。
ただ、早すぎると、芽の段階の発想を摘んでしまうことがあります。
「そういえば、こんな使い方をしている人がいました」
「そういえば、そこに少し気まずさを感じるんです」
「なんとなく、これだと自分のために作られた感じがしない」
こうした言葉は、最初の段階では説明しづらい。
でも、そこにこそ、新しい企画の入口があることがあります。
価値共創は、「要するに」と「そういえば」の往復で深まる
価値共創というと、「生活者の声を聞くこと」だと思われがちです。
けれど本質は、それだけではありません。
生活者の声を集めるだけなら、アンケートや調査でもある程度できます。
価値共創が面白いのは、企業と生活者が同じ場で出会い、お互いの見え方が行き来することにあります。
生活者の「そういえば」が出る
日常の小さな違和感や、本音に近い感覚が言葉になります。
企業側が「要するに」で受け止める
その断片を、価値や課題の構造として捉え直していきます。
さらに往復して輪郭が見えてくる
別の生活者や担当者の反応が重なり、意味が深まっていきます。
ただ声を集めるだけではなく、その場で問い返し、揺れ、考え直し、深まっていく。
この往復があるから、単なる情報収集で終わらず、面白いアイデアが形につながっていくのです。
図2:価値共創の場では、生活者の気づきをすぐに消さず、まず記録し、あとから企業側の視点で整理していくことが重要です。自由な発想と構造化が両立すると、アイデアが実装可能な価値へ育ちやすくなります。
企業担当者も、生活者も、どちらも「人間」である
ここで大事なのは、企業担当者も人間であり、生活者も人間である、という当たり前のことです。
企業担当者
会社の看板を背負い、責任を持ち、事業として考える立場です。
でもその人自身もまた、日々どこかで買い物をし、迷い、うれしくなり、面倒さを感じながら暮らしている一人の生活者です。
生活者
商品を使う側であると同時に、仕事を持ち、判断し、誰かの期待に応えながら生きている一人の人です。
単なる「消費者サンプル」ではありません。
このことを忘れると、共創は急につまらなくなります。
企業側が生活者を「意見をもらう対象」としか見なくなる。
生活者が企業側を「売りたいだけの人」としか見なくなる。
そうなると、本音のやりとりは生まれません。
でも、お互いを一人の人として見ることができると、場は変わります。
「この担当者も悩みながら考えているんだな」
「この生活者の言葉には、その人の暮らしの重みがあるんだな」
そんな実感が生まれると、表面的な発言の奥にあるものが見えやすくなります。
面白いアイデアは、最初から「要するに」では現れない
新しい価値や面白いアイデアは、最初から整った形では出てきません。
- なんか気になる
- ちょっと変だけど惹かれる
- 理由はわからないけど、いい感じがする
- こういうときに、これがあると助かる
こうした曖昧な感覚は、会議の中ではすぐに整理されにくいものです。
けれど、面白い価値の芽は、たいてい最初は曖昧です。
だからこそ価値共創の場では、「要するに」を急がず、「そういえば」にしばらく付き合うことが大切になります。
あとから振り返ったときに、「あの何気ない一言が、実は大事だった」と気づくことは少なくありません。
場づくりで大事なのは、「両方が生きる設計」
「要するに人間」と「そういえば人間」は、放っておくとぶつかりやすい存在です。
だからこそ、ただ人を集めるだけでは価値共創の場にはなりません。
両方が生きる場づくりのポイント
- 最初にテーマや目的を共有し、場の方向性を見えるようにする
- 脱線や断片的な話も、すぐには切らず一度受け止める
- 思いついたことを付箋やメモで残し、忘れさせない
- 後から構造化できるように、自由と整理の両方を設計する
つまり場づくりとは、秩序をつくることでもあり、自由を守ることでもあるのです。
その両方が生きるように場を整えることが、価値共創のファシリテーションの大事な役割です。
「顧客の声を聞く」だけでは足りない理由
よく「顧客の声を聞くことが大事」と言われます。
もちろんその通りですが、本当に大事なのは、声を聞くことそのものではなく、その声とどう出会うかです。
アンケートにも声はあります。レビューにも自由回答にも声はあります。
でも、それだけでは「要するに」と「そういえば」の往復までは起きにくい。
多くの場合、企業側があとから整理し、解釈する構図になります。
価値共創の場では、その場で揺れが起きます。
生活者の一言に企業担当者が反応し、企業側の問いかけに生活者が考え直し、
別の参加者の言葉で意味が深まる。
この相互作用があるから、単なる情報収集では終わらないのです。
価値共創は、アイデアだけでなく企業の見え方も変える
価値共創の効果は、商品やサービスのアイデアだけではありません。
実は、企業担当者の見え方そのものが変わることがあります。
普段社内で議論していると、つい顧客を「ターゲット」や「属性」で捉えがちです。
30代女性、子育て世帯、健康志向、価格重視。
それは整理には便利ですが、人間のリアルはそこからはみ出します。
生活者と直接向き合う場では、その「はみ出し」に触れます。
価格だけで決めていない。便利だけでも選んでいない。
少しの面倒さが逆に愛着になることもある。
機能よりも、気持ちのほうが決め手になることもある。
こうした実感を持つと、企業担当者の中で顧客像が変わります。
「市場」ではなく、「暮らしを持った人」として見えるようになる。
この変化は、企画にも、営業にも、デザインにも、言葉づくりにも効いてきます。
まとめ|人間と人間が出会うから、価値共創は面白い
企業担当者は「要するに」で考えやすく、生活者は「そういえば」で語りやすい。
この違いは、ぶつかる原因にもなりますが、価値共創においては大きな強みになります。
企業側の構造化する力があるから、アイデアは形になりやすい。
生活者の現場感ある気づきがあるから、発想は生きたものになりやすい。
その往復があるからこそ、企業の中だけでは出にくい価値が生まれます。
価値共創とは、「要するに」と「そういえば」をつなぐ営み
価値共創とは、顧客の声をただ集めることではなく、 「要するに」と「そういえば」を何度も行き来しながら、新しい意味を見つけていく営み なのではないでしょうか。
そしてその出発点には、企業担当者も生活者も、どちらも一人の人間である、という当たり前だけれど大事な事実があります。
人間と人間が出会うからこそ、価値共創は面白い。
その面白さの中にこそ、これからのものづくりやサービスづくりのヒントがあるように思います。
「要するに」と「そういえば」が行き来する場を、実際につくってみませんか?
こらぼたうんでは、企業担当者と生活者が一緒に考え、話し、気づきを深めていく 価値共創マーケティングの実践支援を行っています。
商品開発のヒントがほしい、顧客理解をもう一段深めたい、 社内だけでは出にくい発想を広げたい。そんなときは、 一度いまの状況を整理しながらお話しできます。
まだ依頼する段階ではなくても大丈夫です。まずは「こういうテーマでも相談できる?」という入口からでもお気軽にどうぞ。
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