「もっと顧客の声を聞こう」「市場ニーズを起点に考えよう」――。 商品開発や企画の現場では、こうした考え方が当たり前のように語られます。 たしかに、作り手の都合だけで進めるより、顧客視点を持つことは大切です。 ただし、顧客の声を聞くことと、本当に売れる商品につながることは同じではありません。 この記事では、マーケットインの注意点を整理しながら、なぜ「顧客の声を聞いても売れない」のか、その理由を考えていきます。
マーケットインは大切です。ですが、 「顧客の声を集めれば正解が見つかる」と考えすぎると、 かえって無難で埋もれる商品になってしまうことがあります。 ここで必要なのは、マーケットインを否定することではなく、 どこに限界があり、何に気をつけるべきかを見極めることです。 このテーマ全体の入口としては、 「プロダクトアウトの限界とは?マーケットインの注意点と、これからの商品開発に必要な視点」 もおすすめです。
マーケットインとは何か
マーケットインとは、顧客や市場のニーズを起点に商品やサービスを考える進め方です。 「何が求められているのか」「どんな不便や不満があるのか」「どんな人に、どんな場面で必要とされるのか」を見ながら、 商品企画や改善を進めていきます。
作り手の思いだけで進めるよりも、顧客視点を持ちやすく、 独りよがりを防ぎやすいという意味で、マーケットインはとても重要です。 実際、多くの企業がこの考え方を取り入れようとしています。 一方で、作り手の強みを起点に考える側の論点も知っておきたい方は、 「プロダクトアウトは本当に悪いのか?強みと限界を整理する」 もあわせて読むと流れがつかみやすくなります。
マーケットインの良さ
- 顧客起点で考えやすい
- 独りよがりな商品企画を防ぎやすい
- 不満や不便への対応策を見つけやすい
- 市場とのズレを小さくしやすい
しかし、ここでひとつ大きな誤解があります。 それは、顧客の声を聞けば、そのまま売れる商品になると思ってしまうことです。
なぜ顧客の声を聞いても売れないのか
顧客の声を聞くこと自体は大切です。問題なのは、その声をどう受け止め、どう活かすかです。 声を集めただけで終わったり、言われたことをそのまま反映したりすると、 かえって売れにくい商品になることがあります。
よくあるつまずき方
- 要望をそのまま仕様に落としてしまう
- 「もっと便利に」「もっと安く」といった声に寄りすぎる
- 不満の解消ばかりに目が向き、魅力づくりが弱くなる
- 多くの声を平均すると、無難で似た商品になりやすい
- 本音ではなく、その場の模範解答を拾ってしまう
つまり、顧客の声は大事でも、 そのまま“答え”として扱うと危ういのです。
マーケットインで陥りやすい5つの注意点
1.言われたことをそのまま反映してしまう
顧客の声の中には、たしかにヒントがあります。ですが、それは必ずしも完成形の答えではありません。 顧客は自分の感じている不便や違和感を言葉にしているだけで、 その解決策まで正確に示しているとは限らないからです。
ここを取り違えると、「言われたから付ける」「要望があったから足す」という発想になり、 結果としてまとまりのない商品になりやすくなります。
2.無難で似たような商品になりやすい
顧客の声を広く集めて平均的にまとめると、どうしても尖りがなくなります。 たくさんの人に配慮した結果、誰にとってもそこそこ良いけれど、 強く選ばれる理由が見えにくい商品になることがあります。
これは、マーケットインの大きな落とし穴です。 顧客に寄り添ったつもりが、結果として競合と似たような方向へ流れてしまうのです。
3.既存ニーズへの対応に終わりやすい
マーケットインは、今ある不満や要望への対応には向いています。 ただしそれだけだと、「今ある困りごと」を埋める発想にとどまりやすくなります。
しかし、実際に選ばれる商品は、 既存ニーズに応えるだけでなく、 まだ言葉になっていない期待や、思わず手に取りたくなる意味を持っていることが少なくありません。
4.調査やヒアリングで“わかった気”になってしまう
アンケートやヒアリング、グループインタビューなどで声を集めると、 何か大事なものが見えたように感じることがあります。 ですが、その場で語られた言葉が、その人の本音や実際の行動と一致するとは限りません。
人は、聞かれた場面に合わせて答えたり、後づけで理由を説明したりすることがあります。 つまり、“言ったこと”と“本当に選ぶ理由”は、必ずしも同じではないのです。
5.顧客自身も気づいていない価値を見落としやすい
生活者は、自分の感じていることをいつも明確に言葉にできるわけではありません。 なんとなく良い、なぜか好き、つい手に取る――。 そうした感覚の中にこそ、選ばれる理由のヒントが隠れていることがあります。
けれど、マーケットインを「声を集めること」とだけ捉えると、 言葉になっていない価値や、対話の中で初めて立ち上がる気づきを取りこぼしてしまいます。
マーケットインで見落としやすいこと
- 顧客の言葉の背景にある感情や文脈
- 比較の中でどこが響いているのかという構造
- 口には出ていないが、行動には表れている価値
- 今の不満ではなく、未来の可能性につながる芽
「顧客の声」と「顧客理解」は同じではない
ここがとても大事なポイントです。 顧客の声を聞くことは、顧客理解の入口にはなります。 しかし、それだけで顧客理解ができたとは言えません。
本当に見るべきなのは、言葉そのものだけでなく、 その背景にある暮らし方、迷い、比較の仕方、使う場面、気持ちの動きです。 そこまで見えて初めて、顧客の声が意味を持ち始めます。
声を集めるだけ
要望・不満・希望を一覧化する
改善点は見えやすいが、埋もれやすい答えになりがち
顧客理解につなげる
背景・文脈・感情・行動まで見る
選ばれる理由や意味の発見につながりやすい
売れる商品につなげるには、何が必要なのか
必要なのは、顧客の声を否定することではありません。 むしろ、声を大切にしながらも、それをそのまま答えとして扱わない姿勢です。
企業が本当に見るべきなのは、 顧客が何を言ったかだけではなく、 なぜそう感じたのか、 どんな場面でそう思ったのか、 その人の暮らしの中で何が起きているのかです。
その先にあるのが、価値共創マーケティングという考え方
マーケットインの注意点を踏まえたとき、その先に見えてくるのが価値共創マーケティングの考え方です。 価値共創マーケティングは、顧客の声を回収するための手法ではありません。 企業と生活者が対話しながら、まだ整理されていない本音や、 本当に選ばれる理由を一緒に見つけ、育てていく実践です。
そこでは、顧客は単なる調査対象ではなく、 価値を一緒に考える相手になります。 だからこそ、アンケートや表面的なヒアリングだけでは見えないものが立ち上がってきます。 この先の考え方を整理した記事として、 「顧客ニーズを追うだけでは足りない|価値共創マーケティングという考え方」 もあわせてご覧ください。
価値共創マーケティングにつながる視点
- 顧客の言葉を集めるだけで終わらせない
- 言葉の背景にある文脈や感情を大切にする
- 企業側の想いや強みも捨てずに持ち込む
- 対話の中で、新しい選ばれる理由を育てる
まとめ
マーケットインは、顧客起点で考えるための大切な視点です。 ただし、顧客の声を聞けばそれで十分というわけではありません。
言われたことをそのまま反映すると、無難で似た商品になったり、 既存ニーズへの対応だけで終わったりしやすくなります。 また、調査やヒアリングで集めた言葉だけでは、 本当に選ばれる理由や、まだ言葉になっていない価値までは見えにくいことがあります。
だからこそ必要なのは、 顧客の声を聞くことの先にある、 顧客の背景や文脈を理解し、対話の中で価値を育てていく視点です。 その実践的な考え方のひとつが、価値共創マーケティングです。
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