「ゴリラの鼻くそ」と検索されてこの記事へ辿り着いた方の多くは、商品情報を探しているかもしれません。
ですが本記事では、このユニークなお菓子が なぜ “中身が同じなのに価格を倍にできたのか” を、 共創マーケティング・文脈価値・ネーミング戦略の視点から解説します。
「意味のつけ方」「売る場所の文脈」「話題性のつくり方」など、 中小企業の商品開発・売り方に役立つヒントとして読みご活用ください。
✅ 価格競争から抜け出すには「意味づけ」の再設計が不可欠
✅ ネーミング・パッケージ・売る場所の“文脈”が価値を倍化する
✅ 顧客のユーモア感覚まで商品に取り込むのが「共創」
✅ しかもこの事例は、大組織ではなく岡社長がほぼ1人で動きながら育てた点にも大きな価値がある
20年以上前の事例ですが、マーケティングの本質が詰まっていて、今でも十分通用します。 当時、黒豆甘納豆はどれも似たような見た目・味で差別化が難しく、スーパーの棚では完全な価格競争でした。
そんな中、ある“名前と売る場所を変えただけ”の黒豆甘納豆が、 価格を2倍にしても売れ続ける商品 へと変貌しました。 この背景には“生活者とともにつくる意味づけ=共創マーケティング”が存在していました。
発売開始から10年時点で累計 400万個 を突破。さらに現在も根強いファンに支えられ、長く愛され続けています。
この事例がさらに示唆的なのは、これが大人数の開発チームや潤沢な販促予算によって実現したものではないという点です。
生みの親である岡社長が、ほぼ1人で動き、持ち歩き、人に見せ、反応を確かめながら育てていったからこそ、
「中小企業でも、1人の熱量からここまで価値を育てられる」という希望のある事例になっています。
1. 「普通の商品」が選ばれなくなった理由
「黒豆甘納豆」と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、 昔ながらのお菓子・少し渋め・価格は200〜300円といったイメージでしょう。
しかし、この固定概念を一瞬で覆したのが「ゴリラの鼻くそ」というネーミングでした。 中身は同じなのに、なぜこんなに売れたのか? その理由を紐解くと、現代のマーケティングにも通じる重要な視点が見えてきます。
2. なぜこのネーミングは強いのか?「売れる商品名」に共通する3つの条件
「ゴリラの鼻くそ」という商品名は、ただ“ふざけている”から強いのではありません。
実は、売れるネーミングに共通する条件をきれいに満たしています。
条件①:一瞬で情景が浮かぶ(イメージが立つ)
“ゴリラ”と聞いた瞬間に、動物園・迫力・非日常が立ち上がります。
条件②:人に言いたくなる(会話が始まる)
その場で笑いが起き、誰かに話したくなる。ここが口コミの起点になります。
条件③:買う理由が変わる(自家用→お土産・ネタ)
「味が好き」ではなく「面白いから買う」にスイッチすると、価格比較から降りられます。
つまりネーミングは、商品を“比較される土俵”から降ろす装置でもあります。
価格競争が起きやすいジャンルほど、名前の役割は大きくなります。
(ミニチェック)あなたの商品名にも当てはまる?
- 初見で「情景」が浮かぶ
- 人に言いたくなる(会話が始まる)
- 買う理由が“価格以外”に移る
3. 中身が同じでも“意味”が変わると価値は2倍になる
「ゴリラの鼻くそ」の中身はごく普通の甘納豆。 しかしネーミング・パッケージ・販売チャネルによって、商品の“受け取られ方”が一変しました。
| 要素 | 通常の黒豆甘納豆 | ゴリラの鼻くそ |
|---|---|---|
| 商品内容 | 甘納豆 | 甘納豆(同じ) |
| ネーミング | 一般的 | 強烈で記憶に残る |
| パッケージ | 和風 | インパクト大 |
| 販売場所 | スーパー | 動物園・観光地 |
| 購入理由 | 自家用 | お土産・話題・SNS |
これはまさに文脈価値(コンテクスト・バリュー)の典型例です。 “どこで・誰が・どんな気持ちで買うか”が変われば、商品はまったく別物になるのです。
4. 売る場所が変われば、商品の“意味”は劇的に変わる
スーパーは比較の場であり、価格が最優先されがちです。 しかし動物園は“非日常の体験の場”。 お客さまの心理は「ここでしか買えないものを探したい」に切り替わっています。
そのため、同じ甘納豆でも、 動物園では“思い出と一緒に買う商品”として価値が跳ね上がります。
5. “意味の再設計”を支えたのは、岡社長の「ほぼ1人の実践」だった
商品が成功した理由は、ネーミングや売る場所の工夫だけではありません。
この事例でもう一つ見落としてはいけないのが、生みの親である岡社長が、ほぼ1人でこの商品を育てていったという点です。
共創マーケティングというと、たくさんのメンバーが集まり、何度も会議を重ね、組織的に進める大掛かりな取り組みを想像する方もいます。
しかし実際には、1人の強い問いと行動力、そして人の反応を素直に受け取る姿勢から始まることも少なくありません。
「ゴリラの鼻くそ」は、そのことをとてもよく示してくれる事例です。
岡社長は、自ら商品を持ち歩き、出会う人ごとに笑顔で紹介しながら、
パッケージを見たときの驚きや笑い、味の感想まで一つひとつ確かめていました。
打ち合わせの喫茶店では店員さんにも手渡し、島根県から出張が増えたことをきっかけに借りた都内のマンションでは、
なんと全世帯に「お世話になります」とゴリラの鼻くそを配って挨拶回りをしていたほどです。
つまり岡社長は、ただ商品を作っただけではなく、自らが最初の営業担当であり、最初の広報であり、最初の市場調査役でもあったのです。
人に見せる。反応をもらう。笑われる。驚かれる。印象に残る。
その積み重ねが、商品名の強さや世界観への確信を深めていきました。
もちろん、いつもすべてがうまくいくわけではありません。
新聞で「店舗独自の仕入れで業績を伸ばす小売チェーン店長」の記事を見つけた岡社長が、
「中間さん、ここ行こう」と島根から上京して訪ねたことがありました。
ところが現場では、「突然来るなんて、なんだ!」と店長に一喝されてしまったのです。
それでも岡社長は、ただ「ガハハ」と笑って、
「こんなこともあるね」と受け止めていました。
まず岡社長自身が動き、見せ、配り、笑いを取り、反応を確かめながら、 商品の意味と物語を少しずつ育てていきました。
つまり「ゴリラの鼻くそ」は、1人の熱量が人を巻き込み、やがて共創に育っていった商品とも言えます。
中小企業にとって大事なのは、最初から完璧な体制を整えることではなく、 まず誰か1人が本気で動き、反応を受け取りながら価値を育てることなのだと思います。
後には類似商品も数多く登場しましたが、長い時間をかけて育ててきた物語と関係性は揺らぐことなく、 むしろ「ゴリラの鼻くそ」ならではの世界観を際立たせる結果になりました。
“深い模倣”の視点で見ると、ここがいちばん強い
このエピソードが示しているのは、「面白いネーミングだった」だけではないそれ以上の本質です。
類似商品が出ても揺らがなかった理由は、模倣されるのが表層(名前・見た目)であり、
模倣されにくいのが構造(仕組み・関係性・学びの回り方)だったからです。
✅ 模倣されにくい「構造」の正体(3つ)
- 反応を取りに行く“習慣”:人に見せる→反応が返る→確信と改善が積み上がる。 (学習速度が上がる)
- 失敗を閉じない“受け止め方”:想定外の反応も「材料」として扱い、次の一手に変える。 (試行回数が落ちない)
- 語り手としての“関係性”:岡社長自身が、商品を通じて人との接点を増やし、物語を育て続けた。 (世界観が厚くなる)
こうした構造が回り出すと、「買う理由」が商品スペックから体験と物語へ移動します。
その結果、類似が出ても「同じに見えるけど、同じではない」という差が生まれ、
「ゴリラの鼻くそ」ならではの世界観がむしろ際立つ――この流れが起きます。
(ミニチェック)あなたが真似るべきは“どっち”?
- 表層:ネーミング/パッケージ/コピー(→すぐ模倣されやすい)
- 構造:反応収集の習慣/失敗の扱い/語り手の関係性(→模倣されにくい資産になる)
“深い模倣”とは、表層ではなく構造(回る仕組み)を自社の土俵に移し替えることです。
しかもその起点が、大きな組織ではなく岡社長ほぼ1人の実践だったからこそ、
この事例は多くの中小企業にとって現実味があります。
人の思いが宿った商品は、ただの「ネタ」ではなく、
“愛される存在”へと成長します。
6. この事例から学べる「脱価格競争」のヒント
この事例は中小企業にとって多くの示唆があります。
- 価格ではなく「話したくなる理由」をつくる
- 売る場所の文脈を変えることで価値を高める
- 顧客が受け取る“意味”を再設計する
- 最初から大きな体制を組まなくても、1人の行動から価値づくりは始められる
あなたの商品にも、まだ眠っている「鼻くそ的ポテンシャル」があるかもしれません。
「価格競争から抜け出したい」「文脈価値をつくりたい」「ネーミングや世界観を見直したい」 そんなご相談が増えています。
こらぼたうんでは、中小企業の状況に合わせて、 共創マーケティングの視点から課題整理 → 戦略づくり → 実行支援まで伴走しています。
あなたの商品にも「鼻くそ的ポテンシャル」が眠っているかもしれません
ネーミング・見せ方・売る場所(文脈)を少し整えるだけで、価格ではなく“意味”で選ばれる状態に近づけます。 まずは現状を伺い、合う進め方をご提案します。
※「まず何を決めればいい?」からでも大丈夫です。課題を伺い、噛み合う進め方をご提案します。
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