モノがあふれる現代、単に「売れる商品」をつくるだけでは不十分になってきました。どんなに機能が優れていても、どんなにコストパフォーマンスが良くても、それだけでは人の心は動きません。
今の時代に求められているのは、「話したくなる商品」です。つまり、誰かに伝えたくなるような体験を伴った商品、あるいは物語性をもった商品が選ばれるようになっています。
では、どうすれば人は商品を語りたくなるのか? この問いに答えることが、これからの商品開発・マーケティングの鍵となります。
1. 人が「話したくなる」3つの心理的トリガー
まずは、「なぜ人はある商品について話したくなるのか?」という本質から整理してみましょう。そこには主に3つの心理的トリガーがあります。
① 自分のセンスや選択を表現したい
商品を語ることは、自分を語ることでもあります。 「この商品を知っている私はセンスがいい」「こういう価値観が好き」という自己表現欲求が働いているのです。
たとえば、デザイン性の高い日用品や、ちょっとした“ツウ”なこだわりのある商品は、他人に紹介したくなる傾向があります。
② 人の役に立ちたい
「これ、すごく良かったよ」「あなたにも合うと思う」という紹介は、他者貢献の欲求に基づいています。
人は、自分の知識や体験が誰かの役に立つことに喜びを感じます。 使って良かった商品や、悩みが解決された体験を「共有」することで、関係性の中に価値を提供しているのです。
③ 感情が動いた瞬間を語りたい
驚き、感動、笑い、共感など、感情が大きく動いた体験は記憶に残りやすく、語られやすくなります。
それはスペック表に書かれていないこと、言葉にしにくい「感じたこと」。 “心が動いた瞬間”を他人に伝えることで、その体験を再確認し、共有しようとする心理が働きます。
2. 話題になる商品と、そうでない商品の違い
「人は話したくなる」といっても、実際に語られる商品と、全く話題に上らない商品には大きな違いがあります。
● 話題になる商品の特徴
- 他人に話す“ネタ”がある(物語・驚き・共感ポイント)
- 使っているシーンが想像しやすい
- ブランドや体験に“自分ゴト感”がある
- 誰かに薦めたくなる理由が自分の中にある
● 話題にならない商品の特徴
- 単なる機能訴求にとどまっている
- 「安い」「無難」だけが強み
- どのブランドでも代替できる
- 特筆すべき体験がなく、感情が動かない
話したくなる商品には、“個人的な意味”と“誰かと共有したくなる価値”が備わっています。
3. 商品を“語りたくなる”存在にするための設計視点
では、どうすれば「話したくなる商品」を企画・開発できるのか?ここでは具体的な設計のポイントを5つにまとめてご紹介します。
① 誰かに話したくなる“物語”を宿らせる
ストーリーのない商品は、感情に訴えることができません。 原材料の背景、作り手のこだわり、誕生までの失敗と挑戦…人は「理由のあるモノ」に惹かれます。
開発ストーリーや地域資源、共創の背景を伝えることで、“その商品を持つ意味”を語れる状態をつくるのです。
② 商品の“使われ方”を語れるようにする
人が語るのは、商品そのものだけでなく、「どんなときに、どう使ったか」という体験のエピソードです。
そのためには、「シーンを喚起させる設計」が必要です。 使う人の“暮らしの文脈”まで想像できるような視点で設計すると、「これ、あの人にも合いそう」といった連想も生まれやすくなります。
③ 誰かに紹介したくなる“こだわりポイント”を明確に
語られる商品には、「見た目」「素材」「機能」「エピソード」など、何かしらの“一言で言える魅力”があります。
そのためには、「伝えたくなる特徴」を企画段階から意識的に設計することが大切です。
④ 顧客を“参加者”にする
「自分が関わった」商品は、人は自然と話したくなります。 これは“心理的所有感”と呼ばれるもので、以下のような手法が有効です。
- 開発中にアンケートや共創セッションで意見を募集
- パッケージデザインの投票を実施
- ファンの声を商品名に反映する
“顧客と一緒につくる”プロセスを取り入れることで、「私が関わった商品」→「誰かに伝えたい商品」へと進化します。
⑤ 伝える“場”をつくる
語られる商品であるためには、語る“場”の設計も欠かせません。
SNS、リアルイベント、店舗内掲示、購入後フォローのメールなど、語るきっかけを与えるコミュニケーション設計が重要です。
語りたくなる情報+語れる場の掛け合わせが、自然なクチコミの連鎖を生み出します。
4. 実践ステップ:自社商品を語られる存在にするには?
最後に、すぐに取り組めるステップをまとめます。
● ステップ①:語れる要素があるかチェック
- なぜその商品なのか、理由があるか?
- 使う人の生活シーンが想像できるか?
- ひとことで伝えられるこだわりがあるか?
● ステップ②:語れる人を増やす
- スタッフ自身が「語れる体験」をしているか?
- 社内で商品ストーリーを共有しているか?
- 顧客と一緒に開発や改善のプロセスを設計しているか?
● ステップ③:語る場を設ける
- SNSやレビュー欄に誘導する工夫があるか?
- イベント・ワークショップなど“語り場”があるか?
- 顧客の声を社内でも活用しているか?
おわりに:「語られる」という価値を見直す
売上や反応率だけでは測れない価値が、「語られる商品」には宿っています。
それは、信頼・共感・応援といった、人と人の関係性を生む力です。
広告で一方的に届けるのではなく、顧客が自ら“届けたくなる”状態をつくる。 その鍵は、商品に「意味」と「物語」と「参加の余白」を宿らせること。
商品を「売る」のではなく、「語りたくなる体験を一緒に育てる」時代へ。 その視点で商品を見直せば、きっとこれまでとは違う可能性が見えてくるはずです。