車で移動することが多いので出張の宿は、温泉宿を選びがちです。
しかもできれば露天風呂。できれば夜と朝の2回。できれば「ちょっとだけ」と言いながら長風呂。
…はい、私の出張は時々、仕事なのか湯治なのか分からなくなります。
ただ、これを「温泉が好きだから」で終わらせるのは、もったいない気がしています。
なぜなら露天風呂には、生活者の“なんとなく”をほどくヒントが、かなりの確率で湯気と一緒に立ち上っているからです。
観察:温泉宿を選ぶ理由は「効能」だけではない
温泉宿の選択って、表向きの理由は分かりやすいんです。疲れを取るため、体を温めるため、リフレッシュのため。 でも実際は、もっと小さい要素が積み重なって「ここにしよう」が決まっています。
- チェックインしてすぐ浴衣に着替えられる(これだけで脳が“オフ”になる)
- 館内が静か(音が少ないと心がほぐれる)
- 露天の空が見える(空が見えると、だいたい許せることが増える)
- 湯上がりの導線が良い(迷わない・急かされない・寒くない)
- 「次に何をするか」を考えなくていい(これが最高)
つまり温泉の価値は「お湯」単体ではなく、体験全体の設計にあるんですよね。
雪見露天は、最初の一歩が“地獄”で始まる
ここで、東北の宿の話をひとつ。
雪見の露天風呂がある宿って、ありますよね。湯船の向こうに雪。静けさ。湯気。たまに落ちる雪の音だけ。
あれは、もう景色として優勝です。
ただし問題はそこに行くまでです。
氷点下の中、裸足で露天風呂まで歩く。
これは正直、地獄です。足の裏が「え、なにこれ?罰ゲーム?」って言い始める。
人間、足の裏から哲学するんだな…と学べる瞬間でもあります。
でも、ようやく湯に浸かった瞬間、世界がひっくり返ります。
体はポカポカ、頭はひんやり。
熱い湯と冷たい空気が同居していて、温度の矛盾が気持ちよく成立する。
この感覚が、私は好きです。
「寒いのは嫌だ」と言いながら、わざわざ寒い場所へ行って、最後に最高の気持ちよさを得る。
つくづく人間って、単純じゃないですね。私も含めて。
解釈:人は“機能”より“回復の物語”を買っている
この雪見露天の体験、機能で説明しようとすると、やや苦しくなります。
体が温まる、血行が良くなる、リラックスする。もちろんそれもある。
でも心を動かしているのはそこではなくて、温度差がつくる「切り替わり」なんだと思います。
地獄(冷たい床)から、天国(熱い湯)へ。
しかもその天国は、外気で頭がひんやりしているから、のぼせずに長くいられる。
気持ちよさが“持続”する。
これって、ただの入浴じゃなくて、回復していく物語なんです。
人は温泉で、ただ温まっているだけじゃない。「自分が戻ってくる感じ」「頭が静かになる感じ」「明日を迎えられる感じ」。
この流れを丸ごと味わっている。
そして厄介(いや、面白い)のは、この価値が「言葉になりにくい」こと。
たいてい「なんか良かった」「やっぱり温泉だな」で終わってしまう。ここに“インサイトの入り口”があります。
接続:共創で大事なのは「気持ちよさの内訳」を一緒に言語化すること
ここで仕事の話に戻します(露天風呂の話だけで終わると、私が本当に怒られそうなので)。
企業が価値をつくろうとすると、どうしても機能で語りたくなります。温泉なら「泉質」や「効能」。サービスなら「速い」「安い」「便利」。
でも生活者が動くのは、そこだけじゃない。むしろ「なんか落ち着く」「なぜか選んじゃう」という、 言語化されていない気持ちよさが強い。
- その体験に触れた“最初の10秒”で何を感じた?(例:足の裏の地獄)
- 「最高だ」と感じた瞬間はどこ?(例:湯に浸かった瞬間)
- その気持ちよさは、何と何の“組み合わせ”でできている?(例:熱さ×冷たさ、安心×非日常)
- 逆に、やめたくなる瞬間は?(例:寒すぎる、導線が悪い、待たされる)
- “考えなくてよかった”部分はどこ?(例:案内、導線、準備、気遣い)
こうやって“なんとなく”をほどいていくと、価値は「機能」ではなく「体験の流れの中で起きる感情の設計」だと分かってきます。
雪見露天が教えてくれるのは、生活者は「寒さ」すら嫌い切れないということ。
正確には、寒さそのものが好きなのではなく、寒さがあるからこそ湯の価値が立ち上がる。
切り替わりが気持ちいい。この“文脈”が価値をつくっている。
共創は、その文脈を一緒に掘り当てて、再現できる形にしていくアプローチです。
今日の結論おじさんのまとめ
- 人は「効く」より先に「ほぐれる」で動く
- 価値は“機能”より“体験の流れ”で立ち上がる
- 共創は、その「気持ちよさの内訳」を言語化して再現性にする
つまり私は今日も、露天風呂で仕事をしていた…ということで(※長風呂の言い訳ではありません)。
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