ジョブ理論×共創マーケティング|顧客の“進歩”を拾い、選ばれる理由をつくる実務手順

JTBD(Jobs To Be Done/ジョブ理論)は、商品そのものではなく、「人がその商品を使う“目的(片づけたい課題)”」に注目する考え方です。
たとえば同じ商品でも、買う理由は「時短したい」「失敗したくない」「安心したい」など、状況によって変わります。

一方、共創マーケティングは、アンケートだけでは見えにくい迷い・不安・言いにくい本音を、観察や対話(買い物の場面など)から一緒に掘り起こしていくアプローチです。

この記事では、この2つを組み合わせて、「なぜ選ばれるのか」を言葉にし、小さな実験で確かめながら育てる具体的な手順を紹介します。
この記事でわかること
  • JTBDを「共創の対話」で深くする方法
  • ジョブ仮説→価値提案→小さな実験までの実務フロー
  • 現場で使えるチェックリスト(インタビュー/仮説の質/検証)
用語の基本は用語集にまとめています:ジョブ理論(JTBD)とは?(用語集)

1. なぜ「JTBD×共創」が効くのか

JTBDは強力ですが、机上でやると「それっぽいジョブ」になりがちです。
共創の現場(観察・対話・買い物同行など)を組み合わせると、ジョブが“生活の文脈”に根を張り、施策に落ちます。

ポイントは「競合は商品ではなく“代替手段”」という視点

JTBDでは、競合は同カテゴリの商品だけではありません。
たとえば「疲れを癒したい」というジョブに対して、競合は“栄養ドリンク”だけでなく、早寝・入浴・散歩・動画視聴などあらゆる代替です。
だからこそ、共創の対話で「その人がどんな状況で、何に迷い、何を避けたいのか」を拾うほど、価値提案が鋭くなります。

要点3行まとめ

  1. JTBDは「何を買ったか」ではなく「何のために雇ったか」。
  2. 共創は“言語化しにくい理由”を、体験と対話で掘り起こす。
  3. 両者を合わせると、価格競争ではなく“選ばれる理由”へ直結する。

2. 実務フロー:5ステップの全体像

ここからは、現場で回せるように5ステップに分けて整理します。
まず全体像(図)を押さえてから、各ステップを具体化していきましょう。

先に全体像:「観察→仮説→価値提案→小さな実験→学習」の流れを一度見ておくと、以降の手順が迷子になりません。

JTBD×共創マーケティングの実務フローを示す図。観察・対話で状況を集め、ジョブ仮説を一文にし、価値提案を言語化して小さな実験で検証し、学習・改善へつなげる。
図1:JTBD×共創マーケティングの実務フロー(観察→仮説→価値提案→小さな実験→学習)。
“考えた仮説”を正解にするのではなく、小さく試しながらジョブを育てるのがコツです。

最初に決めておくとブレない3点

  • 対象:誰の、どの場面(シーン)を扱うか(例:平日夜の食卓、出社前のコンビニ等)
  • 観察の単位:意思決定の瞬間(迷う・戻す・比較する・諦める)を拾う
  • 成功条件:改善の判断基準を1つに絞る(例:手に取られる率/再購入意向など)

3. ジョブ仮説の作り方(テンプレ+質問例)

ジョブ仮説テンプレ(まずは“仮”でOK)

(状況)________のときに、
(進歩)________したくて、
(不安/回避)________は避けたい。
だから、________を“雇っている”。

※「商品名」を入れた瞬間に視野が狭くなりがちなので、まずは状況と進歩を主語にするのが安全です。

共創の対話で効く質問(“答え”ではなく“エピソード”を取りにいく)

  • 直近で使ったのはいつ/どこですか?その直前、どんな状況でしたか?
  • 最初に手に取った理由は?そのとき迷いはありましたか?
  • 他の選択肢は何でしたか?なぜ選ばなかった
  • 一番「良かった瞬間」はどこ?逆に「小さな不満」は?
  • 誰かにすすめるなら、何と言いますか?(=生活者の言葉が出る)

4. ジョブを分解する(機能・感情・社会・不安回避)

“ジョブ”を機能だけで捉えると、結局スペック勝負に戻ってしまいます。
共創マーケティングでは、感情・社会・不安回避まで含めてジョブを分解していくのが効果的です。

注意:機能だけでジョブを作ると「スペック比較」に戻りがちです。
共創の強みは、不安・迷い・体面・罪悪感など“言いにくい理由”まで拾えることです。

ジョブを機能的要素、感情的要素、社会的要素、不安回避(リスク回避)の4つで分解して捉える図。中央に「ジョブ(達成したい進歩)」を置き、周辺要素から深掘りする。
図2:ジョブの分解(機能・感情・社会・不安回避)。
共創の場では、「言っていること」より「迷い・ためらい・言い換え」にヒントが出ます。

ジョブ分解のチェック(拾えている?)

  • 機能:何を達成したい?何を短縮したい?何を簡単にしたい?
  • 感情:どんな気持ちになりたい?何が不安?何が面倒?
  • 社会:誰にどう見られたい?家族・同僚の目は?
  • 不安回避:損・後悔・失敗・恥…何を避けたい?

5. “選ばれる理由”に落とす:価値提案の作り方

価値提案は「主語=状況」で書くと、刺さる

価値提案は、「誰に」よりも「どんな状況のときに」を先に置くと刺さりやすいです。
例:「忙しいあなたに」より、「帰宅後10分で夕食を整えたいときに」

一文フォーマット(そのままコピーして使えます)

(状況)________のとき、(不安回避)________を避けながら、
(進歩)________を実現できるように、________(提供価値)を用意します。

※“機能の説明”よりも、安心・納得・迷いの解消に寄せると「選ばれる理由」になりやすいです。

6. 小さな実験(MVPの前に“最小の変更”で試す)

MVPとは:MVP(Minimum Viable Product/実用最小限のプロダクト)は、最小限の形でまず試し、学びながら改善するための考え方です。
この章では、MVPほど作り込む前に、「最小の変更」で反応を確かめる手順を紹介します。

いきなり商品やサービスを作り替えると、時間もコストもかかり、学びが遅くなりがちです。
そこでまずは、言葉・売り場・同梱・導線などすぐ変えられる部分を1〜2点だけ変えて、反応を見ます。
これだけでも「どこが刺さって、どこで迷われているか」が見え、次の改善が一気に精密になります。

最小の変更で検証するときの4ルール

  • 仮説は「どんな状況で」を主語にする(人ではなく“場面”を固定)
  • 変更は1〜2点に限定(多いと原因が特定できない)
  • 成功条件は1つに絞る(例:手に取る率/購入率/再購入意向など)
  • 解釈の基準を先に決める(うまくいかなくても学びが残る)
商品を作り替える前に、言葉・売り場・同梱・導線の4領域で最小の変更を行い検証するチェック図。変更は1〜2点に絞り、成功条件を1つに定める。
図3:MVPの前に、最小の変更で検証する(言葉・売り場・同梱・導線)。
変更は1〜2点に限定し、成功条件は1つに絞るのが鉄則です。

小さな実験:失敗しないための4ルール

  • 仮説は「どんな状況で」を主語にする(人ではなく“場面”を主語に)
  • 変更は1〜2点に限定(多いと原因がわからない)
  • 成功条件は1つに絞る(例:手に取る率/購入率/再購入意向など)
  • 解釈の基準を先に決める(うまくいかなかった時の学び方も含める)

要点3行まとめ

  1. MVPの前に、まず“最小の変更”で勝ち筋を探す。
  2. 変えるのは1〜2点、成功条件は1つ。
  3. 結果の良し悪しより、次の仮説が良くなる学びを残す。

7. よくある失敗と、共創での回避策

失敗1:ジョブが“綺麗な言葉”になって現場で使えない

ありがちなのが、「顧客に価値を届けたい」など、誰でも言える表現になってしまうこと。
回避策はシンプルで、エピソード(具体)→気持ち→理由の順で深掘りして、状況を固定することです。

失敗2:機能ばかりで、感情・不安回避が抜け落ちる

感情や不安は、アンケートでは取りにくい領域です。
共創の場で「迷った瞬間」「手が止まった瞬間」「言い換え」が出たら、そこが宝です。

失敗3:検証が“大きな改善”になってしまい、学習が遅い

小さく試せば、失敗しても早く回復できます。
まずは「言葉/売り場/同梱/導線」で検証し、勝ち筋が見えたら商品やサービスに反映しましょう。

8. まとめ:ジョブは「発見」ではなく「育てる」

JTBDを“正しい答え探し”にすると、現場で止まります。
共創マーケティングで大切なのは、顧客の文脈の中で、ジョブを少しずつ育てること。
そのための最短ルートが、観察・対話 → 仮説 → 小さな実験 → 学習の反復です。
関連:用語の基本はこちら → ジョブ理論(JTBD)とは?(用語集)

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