私たちが生きる現代は「分断の時代」とも言われています。社会の価値観は多様化し、テクノロジーは急速に進化し、消費者の行動もかつてないほど複雑になっています。企業にとっては、新しい商品やサービスを生み出すこと自体が難しくなり、さらに顧客の心をつかみ続けることは一層大きな挑戦になっています。
その背景には「分断」という大きな課題があります。分断と聞くと人間関係の断絶を思い浮かべるかもしれませんが、ビジネスにおける分断はもっと広い意味を持ちます。たとえば、ある部門では顧客の声を集めているのに、別の部門ではそれを共有できていない。広告では「おしゃれ」を打ち出しているのに、店舗では「安さ」を強調している。データ上は売れているように見えるのに、実際の現場ではお客様が不満を抱えている──。こうした「情報」や「体験」、「視点」のズレや断絶こそが分断です。
- 組織・部門間の分断:マーケティング、営業、商品開発、カスタマーサポートなどが縦割りで動き、情報が共有されない。
- 顧客接点における分断:広告、店舗、EC、SNSといったチャネルごとに顧客体験が断絶し、一貫性がない。
- 情報と現場の分断:データはあるのに、実際のお客様の気持ちや背景が理解できず、施策が的外れになる。
こうした分断を乗り越えるために注目されているのが共創型マーケティングです。これは単なる流行語ではなく、分断を超えて企業と生活者が共に価値をつくり出すための新しいアプローチです。
共創型マーケティングとは
共創型マーケティングとは、従来の「企業が商品を作り、市場に投げ、消費者が買う」という一方通行の仕組みを超え、AIの分析力と人間の創造性・共感力を融合させ、さらに顧客自身を巻き込みながら価値を共に生み出す方法です。
簡単に言えば、データやテクノロジーの力を借りつつも、人間らしい感性や顧客との対話を大切にし、「企業と顧客が一緒に未来をつくる」という考え方です。
1. AIの分析力を活かす
現代はデータ社会です。購買履歴、SNSでの発言、ウェブの閲覧履歴など、企業は膨大なデータを持っています。AIはそれを高速かつ正確に分析し、人間では気づけないパターンを見つけます。たとえば「この商品を買った人は3か月以内にこのサービスも利用する可能性が高い」といった予測です。
ただし、AIが見せてくれるのはあくまで「傾向」や「確率」です。なぜそうなるのか、背景にどんな気持ちがあるのかまでは教えてくれません。
2. 人間の創造性・共感力を組み合わせる
そこで重要になるのが人間の役割です。人間は「なぜお客様がそう感じたのか」を想像し、共感し、新しい発想へとつなげることができます。数字だけではわからない「使い勝手の不満」や「デザインに感じる喜び」を理解できるのは人間ならではです。
つまり、AIは「地図」を描き、人間はそこに「物語」を吹き込むのです。
3. 顧客を共創のパートナーと捉える
共創型マーケティングでは、お客様は単なる「買う人」ではなく「一緒につくる仲間」です。商品のアイデア出しに参加してもらったり、試作品を実際に使ってもらって改善点をフィードバックしてもらったりすることで、より「生活者目線に合った商品」が生まれます。
さらに「自分の意見が商品に反映された」という体験は、そのお客様にとって特別な意味を持ち、ブランドへの愛着(ロイヤルティ)を高めます。
なぜ今、共創型マーケティングが必要なのか
では、なぜ共創型マーケティングが「分断の時代を乗り越える鍵」となるのでしょうか。理由は大きく3つあります。
1. 分断をつなぐ架け橋になる
社内で分断していた部門同士も、顧客との共創を中心に据えることで一気につながります。共創という旗印があれば、「営業」「開発」「マーケティング」がバラバラに動くのではなく、同じゴールに向けて協働できます。
参考記事:

縦割り組織の弊害と共創マーケティングによる解決
2. 生活者の本音を掘り起こす
データやアンケートだけでは見えない「感情の奥」にこそ、商品やサービスを磨くヒントがあります。共創型マーケティングは生活者と直接向き合うことで、調査では出てこない「本音」を引き出すことができます。
参考記事:

アンケートに頼らない!本音を引き出す生活者インサイトの見つけ方

聞き方ひとつで、相手の本音はこんなに変わる
3. 持続的な価値を生み出す
顧客と一緒につくった商品は「ただ安いから買う」「便利だから使う」以上の価値を持ちます。そこに「自分も関わった」という意味や「ブランドとのストーリー」が加わることで、長期的に選ばれる理由が生まれるのです。
参考記事:

“売れない”から“選ばれる”へ──価格競争を脱する共創戦略

社員が変わった──生活者と向き合うことで得た社内の気づき
まとめ:分断を超えて未来をつくる
共創型マーケティングは、単なる流行のマーケティング手法ではありません。それは分断の時代を生き抜くための考え方であり、企業と顧客が一緒に未来をデザインするための新しい哲学です。
AIの力で「事実」を見つけ、人間の力で「意味」を与え、顧客と共に「価値」を育てる。この3つが結びつくことで、分断は乗り越えられ、持続的な成長と信頼が生まれます。
分断を超える鍵は「つながること」。そして共創型マーケティングこそが、その道筋を示してくれるのです。