はじめに:なぜ今、共創が注目されるのか?
「最近、顧客との関係が以前よりも浅くなった気がする」「新しい商品を出しても反応が鈍い」。そんな声を多くの中小企業から聞きます。
これは、単に商品の魅力が足りないという問題ではなく、時代そのものが「企業が作ったものを売る」というモデルから、「生活者と一緒に価値をつくる」モデルへ移行している兆しかもしれません。
近年、企業と顧客の関係性に変化が起きています。これまでのようにテレビCMやチラシで一方的に情報を発信するだけでは、もう人の心を動かすことが難しくなってきています。
SNSの浸透、レビューサイトの増加、コミュニティの台頭。こうした環境の変化のなかで、顧客が発信者であり、価値の共創者になっているのです。
このような背景から、いま改めて注目されているのが「共創マーケティング」という考え方です。企業と生活者、企業とパートナー、企業と地域が協力し、対等な関係のなかで新しい価値を生み出す仕組みです。
たとえば昔は、お客さんの声を聞いて改善していくのは当たり前でした。商店街の八百屋さんが「今日は大根が安いよ」と会話しながら販売し、お客さんから「この前のカボチャおいしかったよ」と感想をもらい、それを次の仕入れに活かす。これも立派な共創です。
つまり、共創というのは新しいものではなく、昔ながらの商売の“人との関係性”を、現代のビジネスに再構築する考え方でもあるのです。
さらに最近では、テクノロジーの発展によって、地理的・時間的な制約を超えて共創ができるようになっています。ZoomやSNS、クラウド上のアイデアボードなど、さまざまなツールが共創の可能性を広げています。
共創マーケティングは、売るための手段ではなく、“誰と、どんな関係を築きながら、何を生み出していくか”を大切にするマーケティングです。これからの時代、企業規模を問わず、その発想は欠かせないものになっていくでしょう。
共創マーケティングとは?
一緒につくる、新しい価値のかたち
共創マーケティングとは、顧客、社員、地域、取引先など、企業を取り巻くさまざまな人々とともに価値を創り上げていくマーケティングの手法です。
従来のマーケティングは「企業が調査→企画→製造→販売」という一方通行の流れでした。それに対し共創マーケティングでは、企画段階から顧客を巻き込み、アイデアを一緒に考えるという点が大きな違いです。
顧客は単なる“買い手”ではなく、“参加者”であり、“共犯者”であり、時に“提案者”でもあります。
その結果、商品やサービスは、企業目線ではなく顧客の視点と融合したものになり、強い納得感と愛着をもたらします。
共創の具体的なアプローチ
- アイデア段階からのユーザー参加(インタビュー・共創ワークショップ)
- プロトタイプへのフィードバックを通じた製品改善
- SNSを使ったネーミング募集やアイデア投票
- 地域や団体との共同開発(地域創生×企業の知見)
- 新入社員や学生など、社外の“まだ気づいていない視点”の活用
また、BtoBの分野でも、得意先企業と共に「業務効率改善ツール」を共同開発し、自社製品として展開するケースもあります。
“共創”と“共感”の違い
しばしば混同されるのが「共感マーケティング」との違いです。
共感は、あくまで“理解し寄り添うこと”ですが、共創は“実際に一緒に作り上げること”です。アクションの有無が最大の違いです。
共創マーケティングは、「つながる」ことだけでは終わらず、「行動する」「生み出す」「変えていく」ことを通じて、より深い価値の創出につながります。
なぜ共創が必要なのか
市場環境の変化と「選ばれない時代」
大量生産・大量消費の時代が終わりを迎え、今は「選ばれる理由」がなければ生き残れません。
その選ばれる理由の1つが、顧客との共感やストーリー性、参加型の体験にあるのです。
商品やサービスの機能が似通ってきた現在、単なるスペック競争だけでは差別化が難しく、顧客が選ぶ基準も「何を買うか」から「誰から買うか」「どう共感できるか」へとシフトしています。
顧客が“価値の共創者”になる時代
スマートフォンとSNSの普及により、誰もが発信者となれる現代。企業だけが情報を発信するのではなく、顧客自身がブランドの体験を語り、広める存在となっています。
特にミレニアル世代やZ世代は、「自分が関われるか」「自分らしさが表現できるか」に敏感であり、共創的な取り組みに強く反応します。
商品開発に参加したい、アイデアをシェアしたい、キャンペーンの舞台裏に触れたい――そんな気持ちに応えられる企業だけが、信頼と共感を勝ち取れるのです。
内向きから外向きへ:組織変革のきっかけ
共創の必要性は、顧客との関係だけでなく、社内文化の観点からも重要です。
縦割りの部署間連携が取れない、現場と企画の温度差がある、経営と現場が乖離している──こうした課題を抱える企業は少なくありません。
共創的な取り組みは、部門や役職を越えた「目的共通化」を生み出し、社員同士の対話と協働の機会を生み出します。
ビジネスだけでなく社会課題の解決にも
気候変動や少子高齢化、地域の過疎化など、現代社会には複雑な課題が山積しています。
これらを解決するには、企業だけの力では不十分。自治体、NPO、市民などとの「共創的な連携」が求められています。
共創は社会的意義と経済的成果を両立する新しいビジネスのあり方でもあるのです。
共創に参加した顧客は、「自分もその商品を作った一員だ」と感じ、より強い愛着を持つようになります。 これはロイヤリティ(継続購入意向)を高める効果があり、ファンコミュニティづくりにもつながります。 「自分の意見が反映された」と感じる顧客は、その商品を周囲に語り、自然な口コミを発生させてくれます。これは広告以上の影響力を持ちます。 開発段階から顧客の意見を取り入れるため、市場とのギャップが小さく、売れ筋商品が生まれやすくなります。 実際にある家電メーカーでは、ユーザーから直接「使いにくいポイント」を集めて改良したところ、再購入率が大幅に上昇しました。 共創は、直感や仮説ではなく、リアルな声をもとに進められるため、市場性の高い製品開発に直結します。 社内においても、共創による現場参加型の取り組みは、社員の主体性を引き出します。 商品企画担当者だけでなく、販売員、サポートスタッフ、製造現場の社員までが、共創のプロセスに関わることで、自社の顧客をリアルに感じられるようになります。 これは「自分たちが作っているのは単なる製品ではなく、お客様との信頼だ」という意識を芽生えさせ、離職率の低下にもつながります。 共創を継続していくと、社内の風通しや意思決定のスピードにも良い影響が出てきます。 部署を超えた連携が必要になることで、部門間の壁がやわらぎ、「うちの部署には関係ない」という考えが減っていきます。 共創は、単なる外向けの施策ではなく、企業文化の“見直し”を自然に促す起爆剤にもなるのです。 共創は大がかりに始める必要はありません。まずは「社内会議でアイデアを共有する」「3人だけの座談会を開催する」など、身近で負担の少ないアクションからスタートしましょう。 最初から完璧な共創体制を目指すのではなく、「試しにやってみる」マインドが重要です。 共創のパートナーとして誰を選ぶかは非常に重要です。 顧客、社員、地域住民、取引先など、接点が深い相手ほどスムーズに進行します。たとえば、「よく意見をくれる常連客」「熱心な新人社員」など、信頼と熱量のある人を起点にするのが効果的です。 共創の中心は、双方向の“対話”です。ただのアンケートではなく、対話の余白や偶発性を楽しむ場があると、思わぬアイデアや本音が引き出されます。 対話の形式は自由で構いません。オンライン座談会、店舗内イベント、LINEグループ、MiroやGoogleドキュメントなど、ツールもさまざまに活用できます。 共創の肝はスピードです。「いい意見だったね」で終わるのではなく、すぐに試作品に落とし込む・実験してみる・共有することが信頼につながります。 特に初期段階では、意見の反映が早ければ早いほど「参加してよかった」と思ってもらいやすく、次の協力にもつながりやすくなります。 せっかくの共創成果も、内輪で終わってしまってはもったいありません。 「この商品は○○さんとの対話から生まれました」「この改善は地域の声から」など、共創の軌跡を積極的に伝えることが、ブランドストーリーを強化する力になります。 また、見える化は共創者への“感謝の可視化”にもなり、関係性をより強固なものにします。 ここまで読んでくださったあなたは、すでに共創に対する意識が芽生えているはずです。共創マーケティングとは、ただの戦略ではありません。それは「誰と一緒に価値をつくっていくか」という企業姿勢の現れです。 もちろん、共創には時間も手間もかかります。一方通行の販促活動よりも労力は必要です。しかし、その分、顧客との信頼関係や深いつながり、企業としての“らしさ”が確実に育まれていきます。 最初は一人でも、あなたの行動が周囲を変え、組織を変え、顧客との関係を変えていきます。 たった一人の挑戦が、企業と社会の未来を変える力になる。それが共創マーケティングの本質です。共創のメリットと現場の変化
メリット1:顧客ロイヤリティの向上
メリット2:ニーズに即した商品開発
メリット3:社員のエンゲージメント向上
メリット4:企業文化の変革
共創をどう始める?ステップと実践方法
ステップ1:小さな一歩を決める
ステップ2:巻き込む対象を選ぶ
ステップ3:“対話の場”をつくる
ステップ4:出た声を「すぐに形にする」
ステップ5:成果を見える化して発信する
まとめと次の一歩:共創をはじめるために
まずはここから始めましょう