「ゴリラの鼻くそ」はなぜ売れたのか?―価格競争を超えて“意味”で選ばれる商品のつくり方

20年以上も前の話ですが、今でも十分に通用する内容です。
当時、菓子業界は大量生産・大量販売が主流で、スーパーの棚には似たような甘納豆が並び、価格競争が常態化していました。
黒豆甘納豆市場も例外ではなく、「どこで買っても同じ」と見なされ、安売り合戦に巻き込まれる企業が後を絶ちませんでした。

ゴリラの鼻くそ(黒豆甘納豆)パッケージ画像

そんな中、ある黒豆甘納豆の商品が、ネーミングとパッケージ、売る場所を変えただけで、価格を倍にしても売れる商品へと変貌を遂げます。
この事例は、モノの機能や品質ではなく、“意味”によって選ばれる時代の本質を、今なお鮮明に物語っています。

はじめに:なぜ“普通の商品”では勝てなくなったのか?

「黒豆甘納豆」と聞いて、あなたはどんな商品を思い浮かべますか?
おそらく、昔ながらのお菓子で、健康に良さそう、少し渋め。値段は2~300円というイメージでしょう。

しかし、今から20年以上前、ある甘納豆が「倍の値段」でも売れ続けたのです。
しかも、その名前は「ゴリラの鼻くそ」――。

本記事では、この一見ふざけたように見える商品が、いかにして価格競争を抜け出し、支持されるブランドに成長したのかを、背景と戦略、心理的メカニズムを交えて解説します。

◆ 価格は2倍、中身は同じ。でも売れる理由

「ゴリラの鼻くそ」の中身は、ごく普通の黒豆甘納豆です。
品質や味は既存商品と同等ですが、ユニークなネーミングと強烈なパッケージデザイン、そして販売チャネルの再構築によって、大きな反響を呼びました。

要素 通常の黒豆甘納豆 ゴリラの鼻くそ
商品内容 黒豆の甘納豆 黒豆の甘納豆
パッケージ 和風・伝統的 ゴリラの顔が大きく印刷
ネーミング ○○製菓 黒豆甘納豆 ゴリラの鼻くそ
販売価格 約250円 約500円
販売場所 スーパーマーケット 動物園・観光地・ギフトショップ
購入目的 自家用・高齢者向け お土産・話題作り・笑いのネタ

◆ 「安くて良いもの」だけでは選ばれない時代

当時の甘納豆市場は、商品の品質が横並びで差別化が難しく、販促は価格中心。結果、値下げ合戦に陥り、利益は薄くなり、ブランド価値も下がっていきました。

価格競争の末路は、どの業界でも似ています。

  • 販売店の要望で仕方なく値下げ
  • 差別化のため原料を高級化→さらに価格が高騰
  • 豪華包装で一時的に高級感を演出するも効果短命

これは一見プラスに見えても、ほとんどの場合、利益率とブランドの両方を削る結果になります。

◆ 「意味の転換」で、商品は笑いと驚きの“エンタメ”に

「ゴリラの鼻くそ」は、商品自体の価値を変えたのではなく、顧客が受け取る意味を根本的に変えました。

  • 名前にツッコミたくなる:「何それ?」と笑いを誘い、会話のきっかけになる。
  • パッケージのインパクト:ゴリラの顔が大きく、売り場で目立ち、SNSでシェアされやすい。
  • 中身とのギャップ:鼻くそ=食べられないものという先入観を、実は甘納豆という安心感に変える。

これにより、購入が単なる消費行為から、笑いと驚きの小さなエンターテイメントへと変わったのです。

◆ 販売チャネルも“意味が伝わる場所”へ

同じ商品であっても、その売られる場所の文脈によって価値の感じられ方は大きく変わります。スーパーの棚は便利さが売りですが、同時に競合が並び、価格や容量で比較されやすい環境です。そのため、良い商品でも「その他大勢」に埋もれてしまいがちです。

一方、動物園や観光地の売店は“非日常”の空間です。訪れる人々は日常の買い物モードではなく、「せっかくだから何か買いたい」「ここでしか手に入らないものを探したい」という心理状態にあります。この心理的切り替えが、商品の perceived value(知覚価値)を一気に高めます。

さらに、非日常の場所では買う理由が“体験の記憶”と結びつくため、価格のハードルが下がります。動物園で買う「ゴリラの鼻くそ」は、ただの黒豆甘納豆ではなく、「あのとき家族で笑いながら選んだお土産」という物語を背負った商品になるのです。この物語性こそが、価格競争から抜け出すための強力な武器です。

全国の動物園を巡りながら撮影したお土産売り場の様子
全国の動物園を巡り、売店で出会った鼻くそファンのお店の方々と岡社長

中小企業にとって、この戦略は大きなヒントになります。

  • 売る場所を“安さで選ばれる場”から“意味や体験で選ばれる場”に変える
  • 商品の世界観に合う販売チャネルを選ぶ(例:歴史を感じるお菓子なら城下町、動物モチーフなら動物園や水族館)
  • 販売先の来訪者が「誰かに話したくなる」文脈を意識して商品を演出する
このように、販売チャネルを単なる「流通経路」ではなく「物語を伝える舞台」として設計することが、価格競争から抜け出す鍵になります。

◆ “価格の壁”を超える3つの工夫

  1. 名前で世界観をつくる:意外性と記憶性を両立するネーミング。
  2. パッケージで話題性を狙う:写真映え・SNS映えを意識したデザイン。
  3. ターゲットの再設定:従来客層ではなく「笑いを価値に感じる」層を狙う。

◆ この事例から学べる「脱価格競争のヒント」

脱価格競争には、単に差別化するのではなく、「意味を再設計する」ことが必要です。

施策 内容 意図
ネーミング再設計 驚きとユーモアを盛り込み、記憶に残る 話題性と拡散力を高める
パッケージ刷新 大きなビジュアル・鮮やかな色 売場での注目度を最大化
流通見直し 意味が活きる場で売る 購買動機と商品の文脈を一致させる

◆ 文脈価値とは?

同じ商品でも、「どこで・誰が・どんな理由で」買うかによって意味が変わります。

  • 自宅で食べる → 黒豆甘納豆
  • 動物園で買う → ゴリラの鼻くそ
  • 友人に渡す → 笑いのネタになるギフト

この「意味の変化」こそが価格の受け止め方を変え、選ばれる理由となります。

文脈価値についての解説ページ

文脈価値については、こちらの解説ページをご参考ください。
▶ 文脈価値の詳細を見る

まとめ:あなたの商品にも“鼻くそ”の可能性がある

「ゴリラの鼻くそ」の事例は、価格競争に苦しむ多くの企業にとってヒントとなります。

  • 価格ではなく「話したくなる理由」を作る
  • 売る場所を変えて文脈価値を高める
  • 顧客にとっての意味を再設計する

ありふれた商品でも、“意味”を加えることで価値は倍以上になります。
あなたの商品にも、まだ眠っている「鼻くそ的ポテンシャル」があるはずです。

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こらぼたうん代表 中間祥二

中間 祥二(なかま・しょうじ)

株式会社こらぼたうん 代表取締役

2001年の創業以来、農業からサービス業まで幅広い分野で「共創型マーケティング」を支援。
生活者とともに“選ばれる仕組み”をつくり、売上向上や市場創出をサポートしています。

💻右下に現れる「生成AI」が、いつでもご質問にお答えします(パソコン版のみ対応)。

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