価格や機能では差がつきにくい時代、ブランドが“選ばれる理由”はどこで決まるのか?
その答えの一つが、企業と生活者がともに価値を育てる「共創」の視点です。
モノがあふれる今、企業が提供すべきは単なる商品ではなく、「どんな物語や意味をまとっているか」「そのブランドを選ぶことで、どんな未来に参加できるか」という体験そのものです。本記事では、サステナブル・マーケティングと共創を結びつけながら、“意味あるブランド”を育てるための実務的なヒントを整理します。
“共創”がサステナブルな価値を生む──意味あるブランドを育てるマーケティング戦略
🔍 この記事でわかること
- なぜ今、「共創」がブランドづくりの前提になりつつあるのか
- サステナブル・マーケティングと価値共創マーケティングの関係
- 共創型サステナブル・マーケティングの実践イメージと事例
- 中小企業でも今日から試せる「小さな共創の始め方」
目次
1. はじめに──“選ばれる理由”は共創の中にある
「いい商品なのに売れない」背景には、スペックだけでは測れない“意味”や“共感”という新しい評価軸があります。
モノが不足していた時代は、「安くて便利」「高性能で長持ち」といった分かりやすい価値で勝負がついていました。しかし今、多くの市場で品質も機能も一定以上は「当たり前」になり、「いい商品なのに選ばれない」という状況が生まれています。
生活者が見ているのは、スペックだけではありません。
- この商品は、自分の価値観と合っているか
- このブランドは、信頼できる行動をしているか
- この選択は、社会や未来にどんな影響を与えるか
こうした問いに向き合うとき、鍵になるのが「共創(Co-Creation)」です。企業が一方的に価値を規定して届けるのではなく、生活者・地域・社会と対話しながら価値を一緒に育てていく。
このプロセスそのものが、ブランドへの信頼や共感を生み、「選ばれ続ける理由」につながっていきます。
2. サステナブル・マーケティングとは何か?
「いいこと+ビジネス」ではなく、「社会への配慮をビジネスのど真ん中に組み込む」考え方がサステナブル・マーケティングです。
サステナブル・マーケティングというと、「環境にやさしい」「社会貢献」といったイメージが先に浮かびがちです。もちろん間違いではありませんが、本質はもっと実務に近いところにあります。
それは、社会や地球への配慮を、企業の“本業そのもの”に組み込むという発想です。CSRのように「いいことを別枠でやる」のではなく、事業の設計段階から「社会的な意味」や「長期的な持続可能性」を織り込んでいきます。
サステナブル・マーケティングのポイント
- 誰のどんな課題を、どのように解決するビジネスなのかを明確にする
- 顧客・地域・パートナー・従業員など、複数のステークホルダーと共に価値をつくる
- 「いいこと」だけで終わらせず、きちんと経済的成果にもつなげる
この視点をもつことで、単なる「イメージアップ」ではなく、選ばれる理由としての“社会的価値”を、ブランドの核に据えられるようになります。
3. なぜ今、“共創視点”が必要なのか
変化の激しい時代には、「一社だけで正解を決める」より、「関係者と一緒に正解を探す」方が現実的です。
私たちの周りには、気候変動、地域経済の縮小、情報の過多など、単独の企業だけでは解決しきれないテーマが増えています。さらに、生活者の価値観も細分化が進み、「これさえやっておけば正解」という共通解はほとんど存在しません。
こうした環境の中で力を発揮するのが、「共創視点」です。企業・生活者・地域・パートナーが、それぞれの立場から意見や経験を持ち寄り、「どうありたいか」を一緒に考える。マーケティングは、「売るための仕掛け」から、「未来を一緒に構想する対話の場」へと役割を広げつつあります。
同時に、社員側の意識も変化しています。特に若い世代ほど、
- この仕事は社会にどんな意味を持っているのか
- このブランドの一員であることを誇れるか
といった点を重視するようになっています。共創の場は、生活者だけでなく、社員にとっても「意味のある仕事」を実感できる機会になります。
4. 価値共創マーケティングとの共通点と違い
「顧客と共に価値をつくる」のが価値共創マーケティング、「社会も含めて価値をつくる」のがサステナブル・マーケティングのイメージです。
両者に共通しているのは、どちらも一方通行ではなく“ともに価値をつくる”という姿勢です。違いは、主に「共創の相手」と「価値の射程」にあります。
共通点
- 生活者との対話と協働を重視する
- 商品開発だけでなく、コミュニケーションやサービス体験まで共創の対象とする
違いのイメージ
- 価値共創マーケティング:主に顧客・生活者との共創(C2B)にフォーカス
- サステナブル・マーケティング:社会課題や環境を軸に、地域・行政・NPOなども巻き込む共創
実務では、この二つを分けて考えるより、「顧客と共に考え、その結果が社会にもプラスになる」状態を目指すのが現実的です。そのために必要なのが、企業側の“構想力”──「何のために、誰と共創するのか」を描ける力です。
5. 事例でイメージする「共創×サステナブル」
共創型の取り組みは、「課題解決」と「ビジネス」と「関係性づくり」を同時に進めています。
ここでは、実際の取り組みのイメージをつかむために、代表的な事例タイプを3つのパターンで整理してみます。(固有名詞は省略し、イメージしやすい形に再構成しています)
事例タイプ1:地域資源×スキンケア商品
地域の特産品を原料として加工し、洗顔用の石鹸として商品化。原料の選定から香り・パッケージまで、地域ならではのストーリーを生かした設計にしました。
「特産品を買う」だけでなく、「毎日のスキンケアを通じて地域を感じ、応援する」体験へと変えた取り組みです。
事例タイプ2:農産物×新商品開発
地方の特産農産物を活用した菓子・飲料開発において、企業の開発担当が地域に入り、農家や住民と対話しながら商品を共創。地元の誇りと社員のやりがい、商品の独自性が同時に高まりました。
事例タイプ3:生活者の声×中小企業の商品開発
家電から日用品・食品まで、さまざまな中小企業の商品開発において、主婦・生活者コミュニティ「こらぼれーたー」との共創セッションを実施。価格や機能だけで決めるのではなく、「どんな暮らしを叶したいか」という視点からアイデアを出し合いました。
その結果、「安いから買う」商品ではなく、「自分たちの声が形になったから選びたい」と思えるコンセプトへとシフト。生活者と一緒に“欲しい未来”を描きながら、中小企業の強みを生かした独自の価値提案につなげた取り組みです。
これらに共通するのは、どの事例も「売ることだけを目的にしていない」という点です。課題の当事者と一緒に悩み、試行錯誤し、そのプロセスの中で商品やサービスが「意味ある存在」として位置づけられています。
6. 社内を巻き込む──共創は内側から始まる
社外との共創を進める前に、「社内でどれだけ共創できているか」を振り返ることが近道になることも多いです。
共創というと「企業と顧客」「企業と地域」のイメージが強いですが、本当に力を発揮するのは、社内の共創文化がある企業です。部署や役職を越えて、目的を共有し、率直に意見を交わせる状態ができているかどうかが、外に向けた共創の質も決めていきます。
社内共創を進める3つのポイント
- 情報をオープンにする
現場の声・顧客の声・経営の意図を、できるだけ共有する場と仕組みをつくる。 - 部署横断で「一緒に考える時間」をつくる
商品企画会議や共創ワークショップに、営業・製造・広報なども参加してもらう。 - 小さな成功体験を共有する
「この共創プロジェクトで、こんな成果や気づきがあった」というストーリーを、社内に広げる。
共創は、外に向けたキャンペーンであると同時に、組織づくりのアプローチでもあります。社員が「自分もこのブランドをつくる一員だ」と感じられているかどうかが、長期的なブランド価値を支える土台になります。
7. ブランドの持続的価値は「共創」で育つ
ブランド価値とは、「生活者がそのブランドに抱く経験と感情の総量」。それを育てる最も確実な方法が、共創の積み重ねです。
ブランドは、ロゴやコピーではなく、「この商品・この会社に対して、どんな感情を持っているか」の総称です。共創によって生まれた商品やサービスには、「一緒につくった」「見守りながら育ててきた」という物語が宿ります。
その物語が生活者の中で、次のような感情を育てていきます。
- このブランドの取り組みには納得できる
- 自分の価値観に近いから応援したい
- 何かあったときは、このブランドを選びたい
こうした感情は、リピートや口コミ、紹介といった行動につながり、結果的にLTV(顧客生涯価値)を押し上げていきます。つまり共創は、「ファンづくり」と「売上の土台づくり」を同時に進めるための実践でもあります。
8. まとめ:これからのマーケティングに必要な構想力
「誰に売るか」だけでなく、「誰と価値をつくるか」「どんな未来を一緒に目指すか」を描けるかどうかが、これからの勝負どころです。
サステナブル・マーケティングも、価値共創マーケティングも、本質は「信頼され、応援されるブランド」を育てるための戦略です。共創は、理念ではなく、現場で使える“選ばれるための技術”とも言えます。
そのために企業に求められるのが、「社会と共創する構想力」です。
- 5年後・10年後に、どんな存在として選ばれていたいのか
- そのために、誰とどんな関係をつくっていきたいのか
- 今の一歩を、どう共創の起点として設計するか
中小企業や地方企業にとっても、共創は大きなチャンスです。規模や広告費ではなく、生活者や地域と誠実に向き合う姿勢そのものが、ブランド価値になる時代だからです。
「誰に売るか」ではなく、「誰とつくるか」。
その問いを起点に、御社ならではのサステナブルなブランドづくりを、ぜひ一歩ずつ進めてみてください。
共創は特別な手法ではなく、“人と人との関係を大切にするマーケティング”を形にするための実践です。
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