商品開発やマーケティング施策に行き詰まりを感じたとき、次に取るべき一手は「新たなデータ」ではなく「生活者との共創」かもしれません。
本記事では、ある日用品メーカーが取り組んだ共創セッションを通じて、社員──特にマーケティング担当者の視点と意識がどう変化したのかを紹介します。
共創は、顧客の声を活かす手法であると同時に、企業の内側をも変える強力なきっかけとなります。
■「市場調査では動けなかった」──行き詰まった商品開発
30代のマーケティング担当者・Kさんがリードする新商品の開発プロジェクトは、丁寧にリサーチを重ね、社内会議で承認され、パッケージデザインも決まっていました。
ところが、テスト販売の数字は伸び悩み。SNSでも話題にならず、担当者たちは「なぜ売れないのか?」という漠然とした不安を抱えはじめます。
そんな中、社外のファシリテーターから投げかけられた一言。
「生活者と一緒に、“使う意味”から見直してみませんか?」
それが、Kさんにとって「共創マーケティング」との出会いでした。
■モニター調査とはまったく違った“共創の場”
共創セッションという言葉から、当初Kさんたちは「意見収集型の座談会」のようなものを想像していました。
しかし実際の場は、まるで異なる空気でした。
日用品を日常的に使っている生活者が20人、複数組に分けて企業担当者と同じテーブルを囲み、笑いながら、時に真剣に語り合う。その姿に、最初は戸惑いもありましたが、ある瞬間をきっかけにKさんの意識は一変します。
「これ、見た目はいいんだけど、〇〇〇なのがストレスなんです」
それまで「機能性」「デザイン性」「価格帯」ばかりを見ていたKさんにとって、この“暮らしの声”は衝撃的でした。
机の上のデータには載っていなかった“リアル”が、目の前にあったのです。

■「ターゲット分析」から「人間理解」へ
セッションでは次々と、生活の文脈に根ざした気づきが出てきます。
詳しい具体的な内容については書けませんが
- 「棚に入らないサイズで使いづらい」
- 「SNSに載せるなら、もう少し映えるパッケージにしてほしい」
- 「夫も使うけど、可愛すぎると手に取ってくれない」
などなど、そのどれもが、これまでの調査では見えていなかった“文脈的ニーズ”。
属性で区切られた「ターゲットユーザー」ではなく、個々の生活者の「困りごと」や「こだわり」に触れることで、Kさんのマーケティング視点は「人間理解」へと深化していきました。
■共創体験が社員の“感情”を動かした
Kさんだけではありません。セッションを見学していた商品開発部の社員、製造部門の担当者、営業チームの若手まで、口々にこう語りました。
「自分たちが届けていた“相手”の顔が見えた」
「会議では響かなかった言葉が、今日の声はスッと心に入ってきた」
共創によって、“誰かの役に立っている実感”が社員一人ひとりの心に宿ったのです。
■「売る」から「共に創る」へ──企業の姿勢が変わった
セッション後の報告会で、Kさんはこう語ります。
「これまで私は“どう売るか”を考えていました。でも今は、“誰とつくるか”を考えています。
生活者は、ターゲットではなくパートナーです」
この言葉に、経営層を含むプロジェクトチーム全体が深くうなずきました。
共創で得られたアイデアはすぐに商品改善に活かされ、パッケージの開封性・サイズ・色合いが見直されました。市場投入後の売上は回復傾向に転じ、SNSでも「使いやすくなった」「改良されたことに気づいた」とポジティブな声が上がりはじめたのです。
■共創は“インサイトを得る場”であり“企業が変わる場”でもある
共創マーケティングの効果は、「顧客の声が聞けた」という表層的なものではありません。
本質的には、企業の内側、つまり“社員の視点・意識・関係性”を変えることにあります。
共創セッションは、「正しい意見を吸い上げる場」ではなく、「一緒に考え、一緒に気づく場」。そのプロセスに企業の担当者が深く関わることで、“顧客中心の文化”が社内に浸透していくのです。
▶ 共創は、生活者のインサイトを得るだけでなく、
社員のやりがいと成長、そして企業全体の姿勢に変革をもたらします。