共創(コ・クリエーション)の現場が増えるなか、「ファシリテーター」の役割が注目されています。
アイデアを出す人でも、決定を下す人でもない。しかし、対話を進め、全員が参加できる場をつくる存在として、ファシリテーターは共創の成否を左右すると言っても過言ではありません。
この記事では、共創ファシリテーターに必要なスキルを初心者向けにチェックリスト形式で紹介しながら、実際の場面でどう活用するかを解説します。
社内でこれから共創を始めたい方や、地域や教育現場でワークショップを設計したい方に、役立つ情報をお届けします。
共創ファシリテーターとは?
共創ファシリテーターとは、多様な参加者が対話を通じて新しい価値を生み出す場を設計・運営する人です。
共創では、異なる価値観や専門性を持つ人たちが集まり、一緒に考えることで“ひとりでは到達できないアイデア”や“気づき”を得ることを目的とします。
ファシリテーターは、そのための「土壌を整える存在」。
強引にまとめたり、誰かの意見を代表するのではなく、全員が安心して発言できる空気や、問いを深める流れをつくっていきます。
✅ 初心者向けチェックリスト:必要な8つのスキル
以下は、共創ファシリテーターとして押さえておきたい基本スキルです。
あなたはいくつ当てはまりますか?
スキル | 内容 |
---|---|
1. 傾聴力 | 相手の言葉を否定せずに受け止め、本当に言いたいことを理解しようとする力 |
2. 共感力 | 感情に寄り添い、参加者の安心感を生み出す土壌をつくる力 |
3. フラットな場づくり | 肩書きや年齢、経験の差を超えて全員が対等に意見できる環境を整える |
4. 質問力 | 表面的な答えで終わらせず、問いかけで思考を深める技術 |
5. 可視化力 | 議論の流れや意見をホワイトボードや模造紙でわかりやすく整理・記録 |
6. タイムマネジメント | 時間内に対話を収束させつつ、余白も残せる運営のセンス |
7. 感情の観察力 | 沈黙・戸惑い・盛り上がりなど場の空気を読む力 |
8. 自分を出しすぎないコントロール | 場をリードするが、主役になりすぎない絶妙な距離感 |
このように、ファシリテーターに求められるのは“話す力”ではなく、人を信じて、関係性をデザインする力です。
現場で活かすための実践ポイント
スキルを知るだけではなく、「どのように実践するか」が重要です。以下に、ファシリテーターとして現場で意識したい実践的なポイントを紹介します。
- アイスブレイクの工夫:開始10分で場の空気は決まる。ゲームや雑談を通じて緊張をほぐしましょう。
- “答え”を急がない:結論よりプロセス。沈黙も尊重し、焦らず議論を進めます。
- 途中経過の見える化:参加者が今どこにいるのかを共有できるよう、ボードで随時可視化します。
- まとめすぎない:多様性を尊重し、あえて未完成のまま残す勇気も大切です。
これらを意識することで、共創の現場が「予定調和」から「予期せぬ発見」へと変わっていきます。
よくある失敗とその乗り越え方
共創ファシリテーターとして活動する中で、避けられないのが“失敗”です。
しかし、これらの失敗こそが、ファシリテーターとしての成長に繋がる重要な経験となります。
- 発言が偏る:一部の参加者ばかりが発言してしまう。→ あえて沈黙を置く、順番に一言ずつ話すラウンドを設ける。
- 対立が起きて空気が凍る:意見の違いが表面化してしまう。→ “対立は悪ではなく多様性”と捉え、互いの意図を探る対話を促す。
- 時間が足りなくなる:熱中しすぎて議論が収束しない。→ 事前に目標を共有し、タイムキーパーを立てておく。
- 空気が重くなる:誰も話さない状態になる。→ ホワイトボードに質問を書く、感情の温度を共有するタイムなどで緩和。
これらの場面で大切なのは、「場を操作しよう」とせず、「場を信じて待つ」という姿勢です。
ファシリテーター自身が焦らず、対話を尊重することが、安心安全な共創空間を支えます。
ファシリテーション力を高めるには?
スキルは一朝一夕に身につくものではありませんが、経験と学びの積み重ねによって必ず成長します。
以下はおすすめの育成方法です。
- 日常の会議を“学びの場”にする:ふだんの社内ミーティングで、場づくりや問いかけの工夫を試してみる。
- 他のファシリテーターと振り返る:ペアで進行したり、終了後に内省の時間を設けて互いに気づきをフィードバック。
- 専門書を読む:『ファシリテーション入門(堀公俊)』『U理論(オットー・シャーマー)』『問いのデザイン』など。
- 動画講座・ワークショップに参加:オンラインの共創学習プログラムや実地研修などで実践力を磨く。
ファシリテーションの力は、「正解を出す力」ではなく「可能性を引き出す力」。
だからこそ、日々の小さなチャレンジを継続することが何よりのトレーニングとなります。
初心者でも始められるトレーニング方法
ファシリテーションに興味はあるけれど、どこから始めてよいかわからない。
そんな方でも、気軽に始められるトレーニング方法を紹介します。特別な資格や道具は不要。日常の延長で取り組める内容ばかりです。
- 1. 会議や打ち合わせで“問い”を意識する
例えば「他に視点はありますか?」「それが実現したら、誰が一番うれしいでしょうか?」など、対話を深める質問をひとつ用意して臨むだけで、場の質が変わります。 - 2. 小さな対話の場を開いてみる
ランチ会や雑談の延長で「テーマを決めた10分間対話」を試してみましょう。「理想の仕事環境とは?」など、誰でも語れるテーマがおすすめです。 - 3. 模擬ファシリテーションを練習する
同僚や友人と練習会を開き、自分が進行役となって話題を設定。フィードバックをもらうことで学びが加速します。 - 4. 観察とメモで“場の構造”を学ぶ
社内会議やイベントなど、他人が進行する場に注目。「誰が多く話すか」「どんな問いかけが機能していたか」などを記録し、ファシリテーションの型を観察しましょう。 - 5. 自分の反応を内省する時間をもつ
「なぜあの場で焦ったのか?」「なぜあの人の言葉に共感したのか?」など、自分の感情の動きを言語化することが、ファシリテーション力の基盤となります。
これらの練習を通して、「場をつくる」感覚が少しずつ身についていきます。
大切なのは完璧を目指すのではなく、“対話への好奇心”を持ち続けることです。
共創ファシリテーターは、経験を重ねるほどに味わいと奥行きが増していく“実践知の職人”でもあります。
今、あなたがいる場所こそが、学びのフィールドなのです。
まとめ:共創ファシリテーターとは“場の共作者”
共創ファシリテーターは、アイデアを出す役割ではなく、多様な参加者の力を引き出し、協働を促す触媒のような存在です。
そのために必要なのは、テクニック以上に「場と人を信じる力」。
誰もが心を開き、自分の意見を語り合える場。
そこから生まれるアイデアは、決して一人では辿りつけなかったものです。
ファシリテーターとは、その共創の奇跡を支える“縁の下の力持ち”なのです。
「つくる前に、つながる」—— それを実現する人が、共創ファシリテーターです。