価値共創の現場から──実践の壁は社内にある

目次

1. はじめに

「顧客と共に価値をつくる」という考え方は、今やマーケティングの最前線で重要視されています。消費者参加型の商品開発、SNSを活用した共感設計、生活者視点でのブランド体験など、共創のアプローチは企業活動のあらゆる場面に広がりつつあります。

しかし、実際の現場でこの価値共創マーケティングを実践しようとしたとき、最初に直面するのは「社外のパートナー」ではなく、自社内の壁です。

「現場はやる気なのに上層部が動かない」「いいアイデアが出ても部門間で止まる」「効果測定できないから提案が通らない」──これは私たちが支援する企業の現場で頻繁に聞かれる声です。

本記事では、なぜ価値共創が社内で進まないのか、その“構造的な壁”の正体と、それを乗り越えるための視点を整理してお伝えします。

2. 第一の壁:短期成果を求める組織文化

マーケティング活動が企業で評価されるには「効果測定」が欠かせません。しかし、価値共創は従来の指標では測定が難しい側面を持ちます。

たとえば、テレビCMやWeb広告であれば「インプレッション数」や「CVR(コンバージョン率)」などが明確なKPIとなります。しかし、共創マーケティングでは、生活者と対話を重ね、プロトタイプをつくり、SNSなどを通じて反応を探るプロセスが中心です。これらは数値化しにくく、上層部から「それ、売上につながるの?」と問われやすいのです。

さらに、現代の消費者行動は大きく変化しています。企業から一方的に与えられる情報ではなく、自ら欲しいときに情報を探し、他者の意見を参考にするのが当たり前です。購入の決め手も「安さ」「機能」よりも、「意味」や「体験」に移ってきました。つまり、売れる構造自体が変化しているのです。

3. 第二の壁:縦割り組織と価値の分断

もう一つの大きな壁は、分断された組織構造です。

多くの企業では、開発、製造、営業、広報など、役割ごとに部署が分かれており、それぞれがKPIを持ち、効率的に業務を遂行しています。しかし、共創マーケティングはこの「分業の構造」とは本質的に相性が悪いのです。

共創では、顧客との接点づくり、商品開発、体験設計、販売チャネル、ブランドメッセージなどが一貫してつながっている必要があります。ところが、部門ごとに目標が異なると、「それはうちの仕事じゃない」「タイミングが合わない」といった理由で連携が取れず、せっかくのアイデアが社内で止まってしまうことがよくあります。

4. 社内説得に必要な3つの視点

① 中長期的な視点を持つ

共創は短期的な施策ではありません。むしろブランドエクイティ(無形資産)を高め、継続的なブランド選好を育てていく活動です。

② 共感による判断軸への転換

これまでは「売れるか」「シェアが取れるか」が判断基準でしたが、今後は「顧客に寄り添っているか」「社会と接続しているか」が意思決定の軸になります。

③ 自社ブランドらしさの再定義

どのブランドにも、原点となる「らしさ」や「想い」があるはずです。これを明文化・共有し、組織横断で共通価値として扱うことが、共創を機能させる土台になります。

5. 成果をどう可視化するか

「効果が見えにくい」ことが、共創を社内で進めにくくしている大きな要因です。ですが、まったく測れないわけではありません

たとえばMeta(旧Facebook)では、「会話量リフト調査」や「ブランド好意度の変化」などを計測するソリューションが提供されています。ユーザーが投稿するUGC(User Generated Content)の質や量、感情のトーンなどを分析することで、感情的エンゲージメントの可視化が可能になってきています。

6. 成功企業に共通する4つの条件

    価値共創マーケティングの導入に成功している企業には、いくつかの共通点があります。業種や規模に関係なく、これらの条件が社内に根づいていることで、共創活動が継続的に機能し、成果へとつながっているのです。

  • 共通価値の共有:部署を超えて、ブランドの哲学・価値観が共有されている
  • 組織横断プロジェクトの設計:初めから部署横断型のチームで取り組んでいる
  • 顧客への寛容さ:想定外の声にも柔軟に対応する姿勢がある
  • ブランドに対する“愛”:担当者がブランドへの誇りと愛着を持っている

7.中小企業が共創の成果が早く出る理由

実は、価値共創マーケティングは中小企業こそ相性が良く、成果が見えやすいという特長があります。

その理由は、以下の3点に集約されます。

① 意思決定が速い

大企業では部署や役職が多層構造になっており、1つの施策を動かすにも承認プロセスが複雑です。一方、中小企業では経営層と現場の距離が近く、共創的なアイデアがすぐに実行に移せるスピード感があります。

② 顧客との距離が近い

日々の業務の中で、直接顧客と対話している企業も少なくありません。そのため、アンケートや調査では見えにくい本音のインサイトをつかみやすく、共創の種が自然と集まりやすい土壌があります。

③ 社内での連携が取りやすい

大企業のように部門間で分断されにくく、少人数で柔軟にプロジェクトを編成できる点も強みです。開発・販売・マーケティングが一体となり、生活者との共創に取り組む体制が作りやすいのです。

これらの特性から、共創的な取り組みを始めることで、短期間でも顧客との関係性やブランド認知の変化が体感しやすいというメリットがあります。

今こそ、限られたリソースを「共に創る力」に変換し、選ばれる企業」へと進化する絶好のタイミングではないでしょうか。

8. おわりに──共創は「姿勢」である

価値共創マーケティングは、「特別な施策」でも「流行りの手法」でもありません。生活者と向き合い、共に歩もうとする姿勢そのものです。

その実践を阻む壁は、社外ではなく社内にあります。だからこそ、マーケター一人ひとりがこの壁の正体に気づき、共創に向けた社内コミュニケーションの火種になることが大切です。

「なぜ、うまくいかないのか」を正しく理解し、「どうすれば動くのか」の視点を持つことで、共創の実践は必ず前に進んでいきます。

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