社員・顧客と価値を生み出す実践手法
はじめに|共創が求められる背景
近年、企業に求められているのは「創造力」だけではなく「共創力」です。市場の変化が早まり、顧客ニーズが多様化する中で、ひとつの部署や限られたチームだけで画期的なアイデアを生み出すことが難しくなってきました。
そこで注目されるのが「共創ワークショップ」。社員や顧客、外部の協力者などを巻き込み、対話と協働を通じて新しい価値を生み出す場の設計です。本記事では、共創の場をより実践的に活用するためのアイデア出し手法を10個紹介します。
共創ワークショップ設計の基本視点
共創型ワークショップの成功は、実施そのものよりも「事前の設計」にかかっていると言っても過言ではありません。 特に以下の3つの視点を押さえることで、参加者の創造性と主体性を引き出し、実りある共創の場をつくることができます。
-
● 目的の明確化:
ワークショップの設計で最も重要なのが「何のために行うのか」を明確にすることです。- アイデアを幅広く生み出す場にするのか(発散重視)
- 潜在的な課題を見つけて可視化するのか(共通認識形成)
- 戦略や事業構想に落とし込むことをゴールとするのか(収束・実行設計)
-
● 対象者の選定:
「誰と共創するか」は、ワークショップの本質を左右します。- 社員:現場のリアルな声や知恵を引き出す内部共創
- 顧客:生活者視点を取り入れた本質ニーズの発見
- パートナー企業:供給・流通など多様な連携の可能性を探る
- 学生・地域住民:未来視点や生活実態からの気づきを得る
-
● プロセス設計:
成功するワークショップには、発散と収束をバランス良く組み込んだ流れが欠かせません。- 発散:自由に意見を出し合う時間(ブレスト・ペア対話・カードワークなど)
- 収束:出た意見を整理し、共通点や方向性を見出すフェーズ
- 可視化:グループごとの成果を模造紙・ホワイトボード・スライド等にまとめて共有
共創を活かすアイデア出しワークショップ10選
- 1. ブレインライティング: 個々が無言でアイデアを紙やツールに書き出し、それを他者が読み取って発展させる形式。発言の得意・不得意に左右されず、多様な視点を取り込めるのが魅力。特に静かな環境でじっくり発想を深めたい場面に適しています。
- 2. KJ法: 情報や意見をカードに書き出し、意味や関係性を見つけながらグループ化していく手法。複雑な情報を整理・構造化するのに向いており、潜在的なつながりやテーマの発見に役立ちます。
- 3. 未来新聞: 理想の未来を架空の新聞記事として描くことで、ワクワクする未来像を可視化します。未来起点でアイデアを出す「バックキャスティング」思考が特徴で、新規事業やビジョン共有に有効です。
- 4. オズボーンのチェックリスト: 9つの発想視点(例:転用・結合・代用など)を用いて、既存アイデアを深掘り・広げる思考補助ツール。枯渇した議論を活性化し、思考の幅を意図的に広げたい時に便利です。
- 5. インサイトスケッチ: 顧客の行動や感情を図やイラストで可視化することで、論理だけでは見えない“気づき”を促します。共感を起点としたアイデアづくりに向いており、BtoC領域で特に有効です。
- 6. ストーリーボード法: サービスや製品の利用シーンを時系列で絵や図にし、課題やニーズを見つけていく手法。顧客体験を“視覚的に理解する”ことで、チーム内の認識共有と課題の発見が促されます。
- 7. アイデアスピードラウンド: 短時間で一気に数多くのアイデアを出すラピッドブレスト型のワーク。評価は後回しにして量を重視することで、思わぬ切り口が出やすくなります。発散フェーズに最適です。
- 8. ヒーロージャーニー: 顧客や自社を主人公に見立て、「挑戦・障害・成長」のプロセスを物語にして描きます。感情やモチベーションを伴った深い共創アイデアを引き出せるストーリー発想法です。
- 9. デザインスプリント・ダイジェスト: Google発の5日間プログラムを1日版に凝縮した高速課題解決法。課題明確化→発想→選定→検証までを短時間で体験し、スピード重視のチーム開発や検証に適しています。
- 10. ChatGPT共創法: AIを共創の“参加者”として活用。質問や入力に対して即座に提案が返ってくるため、異なる視点の刺激が得られます。人とAIのハイブリッドで、発想の幅を飛躍的に拡げられます。
実施時の注意点と成功のコツ
✅ 出てきたアイデアを必ず可視化
ワークショップでの発言やアイデアは、ただ話すだけで終わらせず、必ず「見えるカタチ」で残すことが重要です。付箋、カード、ホワイトボード、模造紙などを活用し、全員の目に触れるようにしましょう。
- 発言をその場で付箋に書いて貼り出す
- 模造紙やボードでグルーピングや優先順位づけ
- 記録係やファシリテーターが内容を整理しながら可視化
これにより、「自分の意見が残っている」という実感が生まれ、参加者の主体性も高まります。
✅ 上下関係や部署を越える構成
共創の質を高めるには、心理的安全性の確保が不可欠です。役職や部署に縛られた構成では、自由な発言が生まれにくくなります。
- 座席をランダムに配置する(部署や役職を混ぜる)
- 名前ではなくファーストネームやニックネームで呼び合う
- ファシリテーターが「立場ではなく意見を尊重する」場づくりを徹底
こうした工夫によって、普段は口にしづらい本音や斬新な視点が出やすくなります。
✅ 記録と振り返りの仕組み化
ワークショップの内容をその場限りで終わらせず、ナレッジとして蓄積・共有することが、共創文化の定着に直結します。
- 終了時に「ふりかえりシート」やKPT(Keep・Problem・Try)を実施
- 記録係が当日の内容を整理し、チームで共有
- 次回開催に向けた改善点を明文化し、PDCAを回す
これにより、「やりっぱなし」にならず、ワークショップを重ねるごとに質が高まり、成果にもつながりやすくなります。
導入事例|テーマ別 共創ワークショップの実践と成果
● 素材を製品に ──「素材の活かし方」から一緒に考える
地元の農家と中小メーカーによる共創:希少な素材を活かした商品を作るため、生活者と一緒に「どんな暮らしの中で使いたいか」を考える共創会議を実施。お菓子、石鹸、入浴剤など複数案が生まれ、最終的に「素材を活かしたお菓子」をテーマに製品化。販路拡大に成功。
● パッケージをリニューアル ──「第一印象」を共に再設計
家庭用品メーカーとの共創プロジェクト:既存商品のパッケージが「品質の良さが伝わらない」との声を受け、実際の購入者や店舗スタッフと共に“手に取りたくなるパッケージ”を考えるワークショップを開催。色・フォント・素材感・開けやすさなどをテーマに意見交換。複数案を試作し、共創メンバーの声を反映した形で刷新。
結果:リニューアル後3ヶ月で店頭の売上が50%増。特に初回購入者数が伸び、「商品価値の伝達」に成功。
● ゼロからのアイデア出し ──「こんな商品あったらいいな」を共創で
雑貨系スタートアップ企業との連携:創業初期段階で「ユーザーと一緒に事業の種をつくる」ことを目的に、生活者参加型の“妄想商品会議”を実施。「こういう場面で、ちょっと困る」「こういうの、あったら絶対買う」といった声から、複数のアイデアが誕生。
ポイント:“売るための商品”ではなく“欲しいから生まれた商品”という共創の原点に立ち返った事例。
💡 共通の成功要因とは?
- 生活者と一緒に“意味づけ”を行ったこと(使い方・価値・体験の文脈)
- プロトタイピングやその場の対話を通じて、直感的な意見を引き出したこと
- 社員の気づきと当事者意識が育まれ、社内の巻き込みも促進
まとめ|共創ワークショップがもたらす変化
共創ワークショップは単なる手法ではなく、「組織の対話文化を育て、創造力を開く仕組み」です。社員の意識が変わり、顧客と企業の関係性も深化する――そんな変化を起こす鍵がこの“共創の場”にあります。
まずは1テーマ・1時間でも構いません。目的と相手を明確にした上で、小さく始めて継続する。それが、未来の価値創造につながる第一歩です。