価値共創マーケティング 実践ガイド
第2章 顧客理解の落とし穴:アンケートでは見えないもの
顧客理解を深めようと思ったとき、多くの人がまずアンケートを考えます。
もちろんアンケートは便利です。ですが、ここに大きな落とし穴があります。
「聞けた答え」=「本当の理由」ではないことが多いのです。
この章では、アンケートが悪いのではなく、アンケートだけでは見えにくい“領域”があることを、
初めての方にもわかるように、やさしく・具体的に説明します。
最初に:アンケートは「地図」であり「現場」ではない
先に、誤解がないように言っておきます。
アンケートは悪者ではありません。
実際、数字として傾向をつかむには、とても役立ちます。
やさしいたとえ
アンケートは「地図」のようなもの。
便利だけれど、地図だけ見て現場に行かないと、本当の地形はわかりません。
たとえば地図には「道」が描かれていますが、実際の現場には
「暗くて怖い」「ベビーカーだと通りにくい」「夕方は混む」など、地図に載らない情報があります。
顧客理解も同じで、アンケートには拾える情報と拾いにくい情報があります。
この章の結論(先に言うと)
アンケートは「傾向」をつかむのは得意。
でも「決め手」や「本当の理由(気持ち・場面)」は、別の方法で補う必要があります。
落とし穴①:人は「理由」をうまく説明できない
アンケートでは「買った理由は何ですか?」と聞くことが多いですよね。
でも、ここに大きなズレが起きます。
ポイント
人は、自分が買った理由を「それっぽく説明」できても、
本当の理由(決め手)を正確に言語化できないことがよくあります。
これは「ウソをついている」という話ではありません。
むしろ、人は無意識で決めている部分が多いからです。
アンケートで「言いやすい理由」
- 価格が安かった
- 機能が良さそうだった
- 口コミ評価が高かった
※“説明しやすい”ので回答に出やすい
実はよくある「言葉にしにくい決め手」
- なんとなく安心できた
- 自分の生活に合いそうだった
- 家族に反対されなさそうだった
※“感じたこと”なので答えに出にくい
たとえば、あなた自身も「なぜその店に入ったのか」を聞かれると、うまく答えられないことはありませんか。
実際は「雰囲気が入りやすかった」「店員さんの声かけがちょうどよかった」など、場の空気が決め手だったりします。
ここで起きる問題
アンケート結果を“そのまま”信じると、説明しやすい要因だけが大きく見えて、
本当に効いている「決め手」が取りこぼされることがあります。
落とし穴②:質問の形が答えを決めてしまう
アンケートは「質問のしかた」で結果が大きく変わります。
とくに、選択式(チェック式)は便利ですが、同時に“答えの枠”を作ってしまう特徴があります。
この章の言い方
アンケートの選択肢は、回答者にとって「答えの枠」になります。
枠があると、人はその中から選びやすい一方、枠の外の事実が消えることがあります。
たとえば、こんなズレ
「購入の決め手は?」という質問で、選択肢が「価格/性能/デザイン/口コミ」しかないと、
本当は「店員さんの説明が安心だった」「配送が早くて助かった」などの要因が回答に出てこないことがあります。
そして、ここがさらに厄介なのですが——
人は選択肢から選ぶと、自分の経験をその枠に当てはめて「そうだった気がする」と納得してしまうことがあります。
現場で起きがちなこと
“本当の理由”が消えたまま、そのアンケート結果が正解として社内で共有される。
すると、改善も「枠の中」だけで行われ、ズレが固定されてしまいます。
落とし穴③:「本音」が出るタイミングが違う
アンケートは多くの場合、質問に答えるという形式です。
でも、本音って、いつも「質問された瞬間」に出るでしょうか。
ポイント
本音は、質問されると出にくく、安心した瞬間・迷いの最中・ふとした場面で出やすい。
たとえば、人は買い物中にこんな「つぶやき」をします。
「これ、私でも使いこなせるかな」「失敗したくないな」「家族に何て言われるかな」——
でも、アンケートではそういう言葉が出にくいのです。
質問される場(アンケート)
- きちんと答えようとする
- “正しい答え”を探しがち
- 短い言葉でまとめる
本音が出やすい場(現場)
- 迷っている最中の独り言
- 家族との会話
- 使ってみての「あ〜…」
次章への伏線
本音を拾うには「質問の数」を増やすより、本音が出る“場”を設計するほうが効くことが多いです。
これが、第3章「場の設計」につながります。
アンケートで見えること/見えないこと(使い分けのコツ)
ここまで読むと、「じゃあアンケートは使わないほうがいいの?」と思うかもしれません。
そうではありません。大事なのは使い分けです。
アンケートで“見えやすい”こと
- 満足度の傾向(上がった/下がった)
- 利用頻度や購入回数などの数
- どの層が多いか(年代・地域など)
- 大きな不満(壊れた/遅い等)
=「全体の地図」を描くのが得意
アンケートで“見えにくい”こと
- 迷いの正体(何が引っかかったのか)
- 決め手(最後に背中を押したもの)
- 言葉にならない気持ち(安心・不安)
- 生活の文脈(家族・時間・場面)
=「現場の地形」を拾うのは苦手
使い分けの結論
アンケートで「どこが問題か」を見当つけ、
別の方法で「なぜそうなるのか」を深掘りする。
このセットが、ズレを減らす近道です。
“見えない部分”を拾う3つの方法(今日からできる)
では、アンケートで見えにくい「決め手」や「本音」は、どう拾えばよいのでしょうか。
ここでは、今日から小さく始められる方法を3つ紹介します。
選択肢ではなく「場面」を聞く
「なぜ買いましたか?」ではなく、「買う直前、どんな状況でしたか?」と聞きます。
例:「いつ」「どこで」「誰と」「何に困って」探していましたか?
“迷い”の瞬間に注目する
本音は「決めた後」より、迷っている最中に出ます。
例:「買うのをやめようか迷った点は?」「最後に決めた一言は?」
短い対話を“安心して話せる形”にする
本音は「質問力」より安心感で出ます。
まずは10分でもOK。「評価しない」「否定しない」「急がせない」を徹底します。
補足:深掘りのコツ
うまくいく質問は、答えを集めるためではなく、相手の記憶を思い出してもらうための質問です。
「そのとき、何が気になりました?」「その前に何を見ました?」という“時間を戻す聞き方”が有効です。
次章へのつながり:本音は「聞く」より「出ちゃう」
ここまでで、アンケートの落とし穴は「アンケートが悪い」というより、
本音が出る条件と、アンケートの形式が合いにくいという話だとわかったと思います。
では、どうすれば本音が出るのか。
実は、本音は「質問を工夫する」だけでは足りません。
本音が出る“場”を設計することが決定的に重要です。
次章予告
次の第3章では、本音が「出ちゃう」場のつくり方を扱います。
“質問力”ではなく、“関係性”と“空気”で本音が出る理由を、具体例と一緒に整理していきます。
要点まとめ(3行)
- アンケートは便利だが、「決め手」や「本音」は拾いにくい領域がある。
- ズレの主因は、①理由を言語化できない ②質問の枠が答えを作る ③本音が出るタイミングが違う。
- アンケートで傾向を掴みつつ、場面・迷い・安心感のある対話で補うと精度が上がる。
次の一歩
現場に合う“回る型”を、短時間で整理します
章の内容を踏まえて「どこから始めるのが最短か」を一緒に整理します。 まずは気軽にどうぞ。
※ご相談後に無理な営業は行いません。