オンライン全盛の時代にこそ問いたい/“顔を合わせる共創”の価値

まずは 価値共創マーケティングのフレームワーク を確認してから読み進めると理解が深まります。

テクノロジーの進化により、共創のあり方は大きく変わりました。SNSやオンラインフォーラム、クラウド上のコラボレーションツールなど、デジタル空間での共創活動は今や珍しいものではありません。世界中の人々が場所や時間の制約を越えてアイデアを交わし、プロジェクトを進めることができるようになったのです。

しかしその便利さと引き換えに、私たちは見過ごしてしまっているものがあるのではないでしょうか。――それが、「リアルな場に身を置いて、顔を合わせて話す」ことの力です。

■ “空気感”から生まれる信頼と共感

対面の共創には、オンラインでは得がたい「空気感」があります。呼吸を合わせるように相づちを打つ間、目線を交わすタイミング、沈黙の間合い、そしてその場に流れる雰囲気――これらすべてが、単なる言葉以上のメッセージを発しているのです。

特に価値共創では、意見を「情報」として受け取るだけでは不十分です。参加者一人ひとりの「背景」「文脈」「気持ち」に耳を傾けることが重要になります。その時にこそ、リアルな場での“身体感覚”が不可欠なのです。

オンラインでは、感情の揺れや細やかな表情の変化は見落とされがちです。リアルでは、その微細な反応に気づけるからこそ、「ああ、この人は本当に困っていたんだな」「この言葉の奥に、もっと大事な気づきがありそうだ」といった洞察が生まれます。

■ 雑談や余白が“共創の芽”を育てる

共創の場づくりにおいて重要なのが「余白のある時間」です。会議室に集まり、あいさつを交わし、お茶を飲みながら話す――そうした一見非効率に思える時間の中にこそ、相手の人間性や価値観を感じ取り、関係性を築くチャンスがあります。

実際、数々の共創セッションで「休憩時間にふと話した一言」や「雑談から派生したアイデア」が、後の革新につながるケースを多く見てきました。偶発的で自然なやりとりの中から、共創の芽が生まれるのです。

これはオンライン上ではなかなか起こりにくい現象です。画面の向こうにいる誰かに、気軽に声をかけることは難しく、予定調和的な進行になりがちです。だからこそ、リアルな「場」は、予測不能なひらめきが生まれる、かけがえのない空間なのです。

■ 一体感が行動を生む

共創を一過性のイベントに終わらせないためには、「熱量」と「共感の連鎖」が必要です。リアルの場でともに悩み、笑い、うなずきあった経験は、参加者の心に強く残ります。そして、「自分ごと」としてその後の行動につながるのです。

ある企業では、新商品開発に向けた共創ワークショップを、あえて対面で実施しました。参加者は普段からSNSでつながっていた顧客層でしたが、リアルに会って互いの熱意を交わす中で、「こんなに真剣に考えてくれていたんだ」と気づく場面が何度もありました。

そのプロジェクトは、商品化にとどまらず、応援するファンが広報やイベントにも自発的に関わる形へと広がっていきました。「あのとき一緒に考えたから」「あの場にいたから」という経験が、彼らの行動を自然に引き出したのです。

特にこうした“顔の見える共創”は、地域密着型の店舗づくりやまちづくり、商店街の再活性化などにおいて大きな効果を発揮します。地域の住民や顧客と実際に会い、声を聞き、想いを共有することで、単なるニーズ把握を超えた“共に育てる関係性”が築かれ、その場そのものが愛されるブランドへと育っていくのです。


参考事例


■ リアルとオンライン、それぞれの役割を見極める

もちろん、オンラインの共創にはオンラインならではの強みがあります。遠方の人々とすぐに接続できる、記録が残る、反復しやすい――これらの特性は、アイデアの収集や全体管理にとって非常に有効です。

こらぼたうんにおいても、オンラインのワークショップやヒアリング、情報共有の場を積極的に取り入れています。参加者が時間や場所の制約を受けずに関われることで、多様な視点が集まりやすくなるという大きな利点があります。

だからこそ重要なのは、「使い分け」です。初期段階での信頼構築や深い意見交換にはリアルを活用し、後の情報整理や継続的なやり取りはオンラインに任せる。あるいは、プロジェクトの要所要所でリアルに集まり、方向性や温度感を共有しながら進めていく。

リアルとデジタルを「対立」ではなく「補完」として捉える視点が、今の時代の共創には求められています。

■ オンライン共創とリアル共創の違い

オンライン共創 リアル共創
時間・場所に縛られず、遠隔でも参加しやすい その場の空気感・感情のやりとりを共有しやすい
録画やログで記録が残りやすい 表情や沈黙など、非言語情報が受け取りやすい
参加のハードルが低く、多様な人を巻き込みやすい 関係性が深まり、信頼と共感が生まれやすい
短時間で目的を絞った議論に適している 雑談や余白が偶発的なアイデアを生みやすい
多拠点・多人数の情報共有に強い 「その場にいる」体験が一体感や当事者意識を育む

■ だからこそ、“会う”という選択を大切にしたい

すべてがオンラインで完結する時代だからこそ、あえて「会いに行く」「顔を合わせる」ことの価値は、むしろ高まっているように思います。

それは非効率かもしれません。コストも時間もかかるでしょう。でも、一度リアルに築いた関係性は、何より強く、深く、持続的なのです。人は、画面の向こうより、隣にいる誰かの言葉に心を動かされます。

共創とは、単にアイデアを出し合うことではなく、「ともに考え、ともに育て、ともに前に進む」関係性そのものです。その土壌を耕すのは、やはり「人と人が直接向き合う時間」に他なりません。

これからもデジタル技術は進化していくでしょう。AIも共創の場に入ってくるかもしれません。けれど、どれだけテクノロジーが進んでも、「人と人が向き合う価値」は決してなくならない。

だから私は、リアルで会うこと、共にその場を活かすことに、これからもこだわり続けたいと思うのです。

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