価値共創マーケティング 実践ガイド

第9章 社内を動かす:部署横断・合意形成・継続のコツ

第8章では、共感が生まれる伝え方・売り方(体験設計)を整えました。
しかし、ここから先で多くの会社がつまずくのが、じつは社内です。
「いい話だね」で終わって動かない。担当者だけが疲れる。途中で止まる。
この章では、難しい理論より先に、現場で回る形をつくるためのコツを、やさしく丁寧に整理します。

対象:中小企業(BtoC) テーマ:部署横断/合意形成/継続 所要:40〜60分

最初に:社内が動かないのは「人の問題」ではない

社内が動かないとき、ついこう考えてしまいます。
「みんな協力してくれない」「理解がない」「熱量が足りない」。

でも、ここで一度、視点を変えます。
社内が動かないのは、だいたい“仕組み”の問題です。
人が悪いのではなく、動きにくい構造になっていることが多い。

よくあるパターン

  • 担当者が「いい話」を持ち帰るが、何から始めるかが曖昧
  • 部署ごとに優先順位が違い、話が噛み合わない
  • 判断する人が「根拠」を求めるが、示し方がない
  • 結局、いつもの業務が優先され、共創は後回し

これは“やる気がない”というより、前提が揃っていない状態です。

この章のゴール

誰かの熱量に頼らずに、社内で自然に前へ進む形をつくる。
そのために「ズレを揃える」「見える化する」「小さく回す」を身につけます。

部署横断が止まる3つの理由(ズレの正体)

部署横断がうまくいかない理由は、根性論ではありません。
ほとんどは、次の3つのズレに集約されます。

ズレ① 目的のズレ

  • 企画:新しい価値を作りたい
  • 営業:今月の数字を守りたい
  • 現場:クレームを減らしたい

目的が違うと「正しさ」も違います。

ズレ② 言葉のズレ

  • 「顧客」=誰のこと?
  • 「価値」=機能?体験?意味?
  • 「改善」=どこまで変える?

同じ単語でも見ているものが違います。

ズレ③ 根拠のズレ

  • 企画:仮説で動きたい
  • 上長:数字の根拠が欲しい
  • 現場:実感がないと動けない

根拠の種類が違うと議論が噛み合いません。

まず揃えるべきは「前提」

  • 誰のどんな場面を変えるか
  • 不安は何か/安心の条件は何か
  • 最初の一歩は何か

この3点が揃うと、部署が違っても前に進めます。

ポイント

部署横断は「仲良くする」ことではありません。
同じものを見ながら判断できる状態をつくることです。

合意形成の基本:説得ではなく「見える化」

合意形成というと「相手を説得する」イメージがあります。
でも、説得は疲れますし、反発も生みやすい。
価値共創の合意形成で強いのは、説得ではなく見える化です。

見える化(やさしい定義)

見える化とは、意見を並べることではなく、
「誰の・どんな場面で・何が起きているか」を同じ資料で共有できる状態にすることです。

人は、想像の話だと意見が割れます。
でも、現場の事実が見えると、判断が揃いやすくなります。

意見が割れやすい話し方

  • 「この商品、もっと推すべき」
  • 「お客さまはこう思っているはず」
  • 「たぶんこれが刺さる」

“想像”は、部署ごとに違います。

判断が揃いやすい見せ方

  • 観察:どの場面で迷っていたか
  • 対話:どんな言葉が出たか
  • 仮説:何を変えると安心が増えるか

“事実→仮説”なら議論が前へ進みます。

合意形成のコツ

「賛成してもらう」ではなく、“判断できる材料”を揃える
その瞬間に、合意形成はぐっと楽になります。

共通言語をつくる:1枚カードで揃える

社内で共創を回すには、毎回長い資料を作る必要はありません。
むしろ、長いほど読まれません。
おすすめは、1枚で揃えることです。

1枚カード(やさしい定義)

1枚カードとは、共創の結果を「社内で判断できる形」にまとめた共通フォーマットです。
部署が違っても、同じ項目を見れば、議論が揃います。

1枚カードに入れる項目(これだけでOK)

① 誰のどんな場面?

(例)初めて買う人/家で使う直前/家族がいる状況

② 何が不安?

(例)失敗したくない/自分に合うか不安/後悔したくない

③ 安心の条件(根拠)は?

(例)選び方の目安/保証/比較/使い方の手順/実例

④ 何をどう変える?(最初の一歩)

(例)ページ冒頭の場面を差し替え/導線の順番変更/試用導入

⑤ いつまでに、誰が、どこで試す?

(例)2週間/担当A+営業B/店頭POP+Webページ

ポイント

社内で必要なのは「全部説明」ではなく、同じ項目で判断できる状態です。
1枚カードがあると、部署横断が“会話”になります。

継続の仕組み:会議ではなく「小さなサイクル」

共創が止まる最大の原因は、「忙しいから」です。
忙しさは悪ではありません。どの会社も忙しい。
だからこそ、続く形は大きな会議ではなく、小さなサイクルで作ります。

小さなサイクル(やさしい定義)

小さなサイクルとは、「決める→試す→振り返る」を短い期間で回す仕組みです。
重要なのは、完璧より回数です。

1

10分:カード確認(何を試す?)

担当と関係者で「最初の一歩」を1つに絞る。

2

2週間:現場で試す

店頭・Web・SNS・接客など、実際の接点で動かす。

3

15分:振り返り(何が起きた?)

数字だけでなく、反応・会話・迷いの減り方を確認。

4

次の一歩を1つ決める

改善点を広げすぎず、次も“1つ”に絞る。

続けるコツ

継続の敵は「理想の高さ」です。
最初から完璧にやろうとせず、小さく回して、学びを積むほうが、結果的に早く前へ進みます。

巻き込み方:営業・現場・企画それぞれのメリット

「巻き込みたい」と思うほど、相手は逃げます。
人は忙しいからです。
巻き込みで効くのは、お願いではなく、相手のメリットを先に置くことです。

営業のメリット

  • 値引きではなく“納得”で売りやすくなる
  • 説明が短くなる(迷いが減る)
  • 反対対応が楽になる(根拠が揃う)

営業は「楽になる」設計が刺さります。

現場のメリット

  • クレーム・迷いが減る
  • 説明の統一で対応がブレない
  • お客さまとの会話が前向きになる

現場は「困りごとが減る」が強い動機です。

企画のメリット

  • 仮説が“現場の事実”で強くなる
  • 通りやすい提案になる(根拠が揃う)
  • 改善が積み上がりやすい

企画は「通る・積む」が重要です。

上長・意思決定のメリット

  • 判断材料が揃う(見える化)
  • 小さく試してリスクが減る
  • 学びが資産として残る

上長は「リスクが見える」が安心材料です。

言い方の例(お願いではなくメリットを先に)

×「協力してください」
◯「これを整えると、説明が短くなって“値引き交渉”が減るはずです。まず2週間だけ試しませんか?」
——相手の未来が想像できると、動きやすくなります。

反対が出たときの扱い方:止めないための3手

共創を進めると、必ず反対が出ます。
反対が出るのは、悪いことではありません。
むしろ、反対が出ない活動は「誰も本気じゃない」可能性もあります。

反対の正体

反対の多くは、「やりたくない」ではなく、不安(リスク)の表現です。
だから、反対を押さえ込むより、不安をほどくほうが前へ進みます。

1

不安を翻訳する(何が怖い?)

「コスト?手間?炎上?失敗?責任?」——反対の中身を分解する。

2

小さく試す形に変える(2週間・1箇所・1つだけ)

不安があるなら“試し方”を小さくする。これが最強です。

3

判断材料を揃える(見える化)

数字だけでなく、現場の反応や迷いの減り方も記録する。

重要

反対に勝つ必要はありません。
反対の“中身”をほどき、小さく試して結果で会話する
これが、社内を止めずに前へ進める一番のやり方です。

次章につながる:成果の測り方(KPIと学習サイクル)へ

ここまでで、社内で回る形(カード・小さなサイクル)が整いました。
でも、続けるにはもうひとつ必要です。
それは「成果が見える」ことです。

次の章につながる話

第10章では、価値共創の成果をどう測るかを整理します。
売上だけでなく、「迷いが減った」「説明が短くなった」「納得が増えた」など、学習が積み上がるKPIを作り、改善サイクルを育てる方法をやさしく解説します。

要点まとめ(3行)

  • 社内が動かない原因は「人」より前提が揃っていない仕組みにある。
  • 合意形成は説得ではなく、事実→仮説を1枚カードで見える化するのが強い。
  • 継続は大きな会議ではなく、2週間などの小さなサイクルで回数を積む。

次の一歩

現場に合う“回る型”を、短時間で整理します

章の内容を踏まえて「どこから始めるのが最短か」を一緒に整理します。 まずは気軽にどうぞ。

※ご相談後に無理な営業は行いません。