価値共創マーケティング 実践ガイド
第9章 社内を動かす:部署横断・合意形成・継続のコツ
第8章では、共感が生まれる伝え方・売り方(体験設計)を整えました。
しかし、ここから先で多くの会社がつまずくのが、じつは社内です。
「いい話だね」で終わって動かない。担当者だけが疲れる。途中で止まる。
この章では、難しい理論より先に、現場で回る形をつくるためのコツを、やさしく丁寧に整理します。
最初に:社内が動かないのは「人の問題」ではない
社内が動かないとき、ついこう考えてしまいます。
「みんな協力してくれない」「理解がない」「熱量が足りない」。
でも、ここで一度、視点を変えます。
社内が動かないのは、だいたい“仕組み”の問題です。
人が悪いのではなく、動きにくい構造になっていることが多い。
よくあるパターン
- 担当者が「いい話」を持ち帰るが、何から始めるかが曖昧
- 部署ごとに優先順位が違い、話が噛み合わない
- 判断する人が「根拠」を求めるが、示し方がない
- 結局、いつもの業務が優先され、共創は後回し
これは“やる気がない”というより、前提が揃っていない状態です。
この章のゴール
誰かの熱量に頼らずに、社内で自然に前へ進む形をつくる。
そのために「ズレを揃える」「見える化する」「小さく回す」を身につけます。
部署横断が止まる3つの理由(ズレの正体)
部署横断がうまくいかない理由は、根性論ではありません。
ほとんどは、次の3つのズレに集約されます。
ズレ① 目的のズレ
- 企画:新しい価値を作りたい
- 営業:今月の数字を守りたい
- 現場:クレームを減らしたい
目的が違うと「正しさ」も違います。
ズレ② 言葉のズレ
- 「顧客」=誰のこと?
- 「価値」=機能?体験?意味?
- 「改善」=どこまで変える?
同じ単語でも見ているものが違います。
ズレ③ 根拠のズレ
- 企画:仮説で動きたい
- 上長:数字の根拠が欲しい
- 現場:実感がないと動けない
根拠の種類が違うと議論が噛み合いません。
まず揃えるべきは「前提」
- 誰のどんな場面を変えるか
- 不安は何か/安心の条件は何か
- 最初の一歩は何か
この3点が揃うと、部署が違っても前に進めます。
ポイント
部署横断は「仲良くする」ことではありません。
同じものを見ながら判断できる状態をつくることです。
合意形成の基本:説得ではなく「見える化」
合意形成というと「相手を説得する」イメージがあります。
でも、説得は疲れますし、反発も生みやすい。
価値共創の合意形成で強いのは、説得ではなく見える化です。
見える化(やさしい定義)
見える化とは、意見を並べることではなく、
「誰の・どんな場面で・何が起きているか」を同じ資料で共有できる状態にすることです。
人は、想像の話だと意見が割れます。
でも、現場の事実が見えると、判断が揃いやすくなります。
意見が割れやすい話し方
- 「この商品、もっと推すべき」
- 「お客さまはこう思っているはず」
- 「たぶんこれが刺さる」
“想像”は、部署ごとに違います。
判断が揃いやすい見せ方
- 観察:どの場面で迷っていたか
- 対話:どんな言葉が出たか
- 仮説:何を変えると安心が増えるか
“事実→仮説”なら議論が前へ進みます。
合意形成のコツ
「賛成してもらう」ではなく、“判断できる材料”を揃える。
その瞬間に、合意形成はぐっと楽になります。
共通言語をつくる:1枚カードで揃える
社内で共創を回すには、毎回長い資料を作る必要はありません。
むしろ、長いほど読まれません。
おすすめは、1枚で揃えることです。
1枚カード(やさしい定義)
1枚カードとは、共創の結果を「社内で判断できる形」にまとめた共通フォーマットです。
部署が違っても、同じ項目を見れば、議論が揃います。
1枚カードに入れる項目(これだけでOK)
① 誰のどんな場面?
(例)初めて買う人/家で使う直前/家族がいる状況
② 何が不安?
(例)失敗したくない/自分に合うか不安/後悔したくない
③ 安心の条件(根拠)は?
(例)選び方の目安/保証/比較/使い方の手順/実例
④ 何をどう変える?(最初の一歩)
(例)ページ冒頭の場面を差し替え/導線の順番変更/試用導入
⑤ いつまでに、誰が、どこで試す?
(例)2週間/担当A+営業B/店頭POP+Webページ
ポイント
社内で必要なのは「全部説明」ではなく、同じ項目で判断できる状態です。
1枚カードがあると、部署横断が“会話”になります。
継続の仕組み:会議ではなく「小さなサイクル」
共創が止まる最大の原因は、「忙しいから」です。
忙しさは悪ではありません。どの会社も忙しい。
だからこそ、続く形は大きな会議ではなく、小さなサイクルで作ります。
小さなサイクル(やさしい定義)
小さなサイクルとは、「決める→試す→振り返る」を短い期間で回す仕組みです。
重要なのは、完璧より回数です。
10分:カード確認(何を試す?)
担当と関係者で「最初の一歩」を1つに絞る。
2週間:現場で試す
店頭・Web・SNS・接客など、実際の接点で動かす。
15分:振り返り(何が起きた?)
数字だけでなく、反応・会話・迷いの減り方を確認。
次の一歩を1つ決める
改善点を広げすぎず、次も“1つ”に絞る。
続けるコツ
継続の敵は「理想の高さ」です。
最初から完璧にやろうとせず、小さく回して、学びを積むほうが、結果的に早く前へ進みます。
巻き込み方:営業・現場・企画それぞれのメリット
「巻き込みたい」と思うほど、相手は逃げます。
人は忙しいからです。
巻き込みで効くのは、お願いではなく、相手のメリットを先に置くことです。
営業のメリット
- 値引きではなく“納得”で売りやすくなる
- 説明が短くなる(迷いが減る)
- 反対対応が楽になる(根拠が揃う)
営業は「楽になる」設計が刺さります。
現場のメリット
- クレーム・迷いが減る
- 説明の統一で対応がブレない
- お客さまとの会話が前向きになる
現場は「困りごとが減る」が強い動機です。
企画のメリット
- 仮説が“現場の事実”で強くなる
- 通りやすい提案になる(根拠が揃う)
- 改善が積み上がりやすい
企画は「通る・積む」が重要です。
上長・意思決定のメリット
- 判断材料が揃う(見える化)
- 小さく試してリスクが減る
- 学びが資産として残る
上長は「リスクが見える」が安心材料です。
言い方の例(お願いではなくメリットを先に)
×「協力してください」
◯「これを整えると、説明が短くなって“値引き交渉”が減るはずです。まず2週間だけ試しませんか?」
——相手の未来が想像できると、動きやすくなります。
反対が出たときの扱い方:止めないための3手
共創を進めると、必ず反対が出ます。
反対が出るのは、悪いことではありません。
むしろ、反対が出ない活動は「誰も本気じゃない」可能性もあります。
反対の正体
反対の多くは、「やりたくない」ではなく、不安(リスク)の表現です。
だから、反対を押さえ込むより、不安をほどくほうが前へ進みます。
不安を翻訳する(何が怖い?)
「コスト?手間?炎上?失敗?責任?」——反対の中身を分解する。
小さく試す形に変える(2週間・1箇所・1つだけ)
不安があるなら“試し方”を小さくする。これが最強です。
判断材料を揃える(見える化)
数字だけでなく、現場の反応や迷いの減り方も記録する。
重要
反対に勝つ必要はありません。
反対の“中身”をほどき、小さく試して結果で会話する。
これが、社内を止めずに前へ進める一番のやり方です。
次章につながる:成果の測り方(KPIと学習サイクル)へ
ここまでで、社内で回る形(カード・小さなサイクル)が整いました。
でも、続けるにはもうひとつ必要です。
それは「成果が見える」ことです。
次の章につながる話
第10章では、価値共創の成果をどう測るかを整理します。
売上だけでなく、「迷いが減った」「説明が短くなった」「納得が増えた」など、学習が積み上がるKPIを作り、改善サイクルを育てる方法をやさしく解説します。
要点まとめ(3行)
- 社内が動かない原因は「人」より前提が揃っていない仕組みにある。
- 合意形成は説得ではなく、事実→仮説を1枚カードで見える化するのが強い。
- 継続は大きな会議ではなく、2週間などの小さなサイクルで回数を積む。
次の一歩
現場に合う“回る型”を、短時間で整理します
章の内容を踏まえて「どこから始めるのが最短か」を一緒に整理します。 まずは気軽にどうぞ。
※ご相談後に無理な営業は行いません。