選ばれる理由”を共に育てる
■ はじめに:モノがあふれる時代に何を選ぶか?
私たちの身の回りには、同じような商品やサービスがあふれています。スーパーに行けば、似たような味のドレッシングが何十種類と並び、ネットで検索すれば、同じような機能をもったガジェットが無数に表示されます。
便利なはずなのに、選ぶのがつらくなる――そんな経験、ありませんか?
これはまさに「コモディティ化」の典型的な症状です。
コモディティ化とは、商品やサービスが市場に出回りすぎた結果、機能・品質・価格の差別化が困難になり、“どれを選んでも同じ”という状態になることです。かつては“差別化”の武器だったスペックやデザインも、気づけば模倣され、価格競争に巻き込まれる――そんな構図は、あらゆる業種・業態で起こっています。
では、企業はこの「コモディティ化」という罠からどう脱出すればよいのでしょうか?そこで注目されているのが、「価値共創(Co-creation of Value)」というアプローチです。
■ コモディティ化の本質と、そのリスク
コモディティ化は、単に商品が似通ってくるという表面的な現象にとどまりません。その背景には、以下のような構造的な問題が潜んでいます。
- 製品中心主義の限界:企業視点で“良い”とされるものが、必ずしも生活者にとって“必要”とは限らない。
- 模倣のスピードの加速:技術革新や情報共有のスピードが増し、どんなに優れた製品もすぐに追いつかれる。
- 価格競争の消耗戦:差別化が難しくなると、最後は価格で勝負するしかなくなる。
その結果、利益率の低下・ブランドの希薄化・顧客ロイヤルティの低下という、企業にとっての“三重苦”が襲ってきます。もはや「良いモノを作れば売れる」時代ではないのです。
■ 「価値共創」という逆転の発想
このような状況に対する打開策として、注目されているのが「価値共創マーケティング(Co-creation Marketing)」です。これは、企業が一方的に“売る”のではなく、顧客や生活者とともに「価値そのもの」をつくり出すという考え方です。
なぜ共創が有効なのか?
- 他社が模倣できない“文脈”を育てられる:商品そのものではなく、「どのような思いで、誰と一緒に作ったのか」という“背景”や“関係性”は、簡単には真似できません。
- 顧客の声がイノベーションの起点になる:実際に使っている人の“困りごと”や“こうだったらいいのに”という声は、新しい価値の宝庫です。
- 心理的ロイヤルティの醸成:共に創った体験は、企業と顧客の間に“絆”を生み出します。それは、単なる満足を超えた「共感」や「応援」につながります。
■ 共創によって生まれた“差別化”・“独自化”の実例
事例:地元農家と連携したスナックの開発
ある菓子メーカーは、地元の農家と“旬の素材を活かしたお菓子を共に作る”というプロジェクトを始動。農家のこだわりや苦労、地域の文脈を商品に織り込むことで、単なる“おいしいスナック菓子”ではなく、“地域との絆を味わう”価値が生まれました。

▲ 生産者農家さんの現場を訪問。素材の魅力や背景を直接ヒアリング
生産者の言葉や表情、畑の風景までを五感で感じることで、開発チームは「商品に込める意味」そのものを見直しました。
こうした「共創ストーリー」は、都市部のファンの心を動かし、価格競争とは別次元の“意味の価値”を提供しています。
そして、この取り組みが大企業ではなく、中小規模の菓子メーカーによって実現されているという点です。現場の声にすぐに耳を傾け、意思決定もスピーディに行える中小企業だからこそ、こうした柔軟な共創プロジェクトが可能になります。
特別な設備や大きな予算がなくても、「一緒に作る姿勢」さえあれば始められる。共創は、大きな資本よりも、人との距離の近さや、地域との信頼関係を強みに変えられる中小企業にこそ、向いているアプローチだと言えるでしょう。
■ コモディティ化の時代における「選ばれる理由」のつくり方
① 顧客を“パートナー”と捉える発想転換
「顧客のニーズを調べる」ではなく、「顧客と一緒に考える」。このスタンスの違いが、共創の第一歩です。リサーチ対象ではなく、プロジェクトの“仲間”として関わってもらうことが鍵です。
② 関係性を育てる“共創の場”を設計する
共創は、偶然起こるものではなく、“仕組み”としてデザインする必要があります。たとえば、ワークショップや試作品の意見交換会、オンラインでのアイデア投稿、店舗での共創イベントなど。
③ 出てきた声やアイデアを“可視化し、活かす”
共創に参加した人の声を、実際の企画や商品に反映させ、それを広く発信することがポイントです。「本当に声が活かされている」と感じられたとき、参加者は“共創者”としての誇りを持ちます。
■ 共創は“価格”ではなく“意味”で選ばれる時代の武器
かつてのマーケティングは、「いかに売るか」「どう目立つか」が中心でした。しかし今、多くの生活者は「なぜそれを選ぶのか」「誰と関わっているのか」といった“意味”を重視しています。
つまり、単なる機能やスペックの差ではなく、「この企業と一緒に未来をつくりたい」と思えるかどうか――ここに“選ばれる理由”の本質があります。
価値共創は、コモディティ化の時代にこそ力を発揮します。
“誰とつくったか”“どんな関係の中で生まれたか”という文脈を共有することで、唯一無二の価値を生み出せるのです。
■ まとめ:コモディティを超えて、「意味のある選択肢」を共に育てよう
市場には似たような商品があふれ、価格だけが競争軸になりがちな今、企業が取るべきは「一方的な売り込み」ではなく、「共に育てる価値づくり」です。
価値共創は、生活者との関係性を通じて、“文脈のある商品”を育て、ブランドへの共感を醸成する力を持っています。
“選ばれる理由”を、顧客と一緒に育てていく――その一歩が、企業の未来を大きく変えていくはずです。