目次
1. はじめに:なぜ“商品が良いのに売れない”のか?

中小企業の現場で、私たちがよく耳にするのが、「商品自体はいいのに、思ったように売れないんですよね…」という声です。開発部門や商品企画チームが時間をかけて、こだわり抜いて作った商品。市場調査もある程度行い、試作品にも手応えがある。
ところが、いざ販売を開始してみると、営業現場では思うように動かない。
チラシや販促物を作っても、お客様の反応はいまひとつ──。
その背景にはいくつかの要因がありますが、特に見過ごされがちなのが、「つくる人」と「売る人」の距離感」です。社内にあるはずの情報や感覚が、部署の壁を越えられずに断絶しているのです。つまり、商品が売れない本当の原因は、商品の出来ではなく、“つくる過程に営業の視点が入っていないこと”かもしれません。
2. 価値共創の誤解:「開発部門の仕事」で完結していないか?
「価値共創」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。顧客の声を取り入れながら、より良い商品やサービスを一緒に創っていくという考え方です。しかし現場でこの言葉を使うと、「マーケティングとか開発の仕事でしょ」と受け取られることが少なくありません。
でも、実際には営業こそ価値共創において重要なプレイヤーです。お客様と直接接している営業担当者こそ、現場のリアルな声を知っており、その情報や感覚が企画に活かされれば、より具体的で実行力のある商品企画が可能になるのです。
特に中小企業では、開発部門やマーケティングチームといっても人数は限られており、リソースも潤沢とは言えません。その中で、新しい商品を成功に導くには、部門の垣根を超えてチームで取り組む発想が必要になります。
3. 営業が共創プロジェクトに入ると何が起きるのか?
では、実際に営業担当者が商品企画や開発初期段階に関与すると、何が変わるのでしょうか?以下のようなプラスの変化が起きることが多くあります。
- 売るイメージが具体化する:開発チームだけで商品を考えると、どうしても「つくること」中心の視点になります。そこに営業が加わることで、「この商品を誰にどう提案するか」という販売のストーリーが企画段階から練られるようになります。
- 営業が“当事者”になる:企画に参加した営業は、その商品に強い“当事者意識”を持ちます。自分が意見を出して作った商品だからこそ、「任されたものを売る」のではなく、「一緒に育てたものを届ける」という感覚で積極的に提案を始めます。
- 顧客の声がリアルに反映される:営業が日々受け取っている顧客からのフィードバックや相談、競合との違いなどは、非常に貴重なインサイトです。それが企画段階で活用されると、より市場に即した商品が完成します。
4. 共創の現場から:ある中小企業での実例
ある食品加工メーカーでは、これまで開発部門だけで新商品の企画を進めてきました。しかし、「なぜか売れない」という課題に直面し、次の商品企画では営業チームから2名をプロジェクトに加えることにしました。
彼らは、普段取引先の小売店や飲食店の現場で得た声をもとに、価格帯、パッケージ、味の好み、ネーミングのセンスなど、販売時のリアルな意見を多数提供。その結果、試作品がブラッシュアップされ、営業が自信を持って提案できる商品に進化しました。
販売開始後は、営業が積極的に売り込み、目標の1.5倍の売上を達成。この成功の要因は、「営業を巻き込んだから」という一点に尽きます。
5. 営業視点がもたらす“市場接続”の力
営業担当者は、お客様の反応や疑問、時にはクレームも日々受け取る立場にあります。その情報は、数値データでは表せない「肌感覚」の市場情報です。こうした情報が企画段階で取り入れられることで、より説得力のある商品づくりが可能になります。
特に中小企業では、市場調査に多くのコストをかけられない場合がほとんどです。だからこそ、営業という“現場センサー”を活かすことが、競争力に直結します。
6. よくある疑問:営業は忙しいのに巻き込んで大丈夫?
「営業は忙しいから、企画に呼ぶと負担になるのでは?」という声もあります。確かに営業には日々のノルマや商談があり、時間的な制約も多いでしょう。
しかし、関わり方を工夫すれば、負担ではなく「やりがい」や「達成感」につながる参加の形を作ることができます。
例えば、月1回の短時間の意見交換会を設ける、商品試作に対してフィードバックをもらうだけでも効果があります。重要なのは、「声を聞いてくれている」「自分が影響を与えている」という感覚です。
7. 社内の壁を越える仕組みづくりのポイント

- 少人数でのプロジェクトチーム化
- 全員が発言できるラウンドテーブル形式の会議
- 営業視点での仮説立案シートを用いたブレスト
いきなり大きな組織変革を目指す必要はありません。まずは1商品、1プロジェクトから。そこから確実に変化が起きていきます。
8. まとめ:売れる仕組みは“売る人”と一緒につくるへ
中小企業こそ、部署間の壁を超えた共創の実現がしやすい環境にあります。人数が限られている分、一人ひとりの視点や意志が商品に反映されやすいのです。
営業を巻き込んだ商品企画は、ただの販売戦略ではありません。それは、企業全体が“お客様の声”に正面から向き合う文化を育てるきっかけになります。
これからの時代、「つくる」ことと「売る」ことは切り離して考えるのではなく、一緒に考えることが成果につながる──そう感じていただけたなら、ぜひ次の商品開発で一歩踏み出してみてください。